<歌舞伎評 矢内賢二>歌舞伎座「十二月大歌舞伎」 玉三郎の軌跡の美

2021年12月10日 07時26分
 歌舞伎座の第一部「新版 伊達の十役」は、前半に「御殿」「床下」を上演し、後半は「獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)」を模した全八場の所作事として新たに構成。先月の「忠臣蔵」もそうだが、コロナ禍による上演時間の制約が既存の演目の短縮、再構成による新たな上演形態の派生を促している。薄味、舌足らずになるのは避けられないが、今後レパートリーになることもあり得るだろう。市川猿之助の十役早替わりのうちでは絹川与右衛門に色気があってよく、土手の道哲が「うかれ坊主」ばりに踊るのがいかにも楽しげ。政岡の口跡は故坂田藤十郎を彷彿(ほうふつ)とさせる。市川中車の栄御前、坂東巳之助の八汐(やしお)。
 第二部「男女(めおと)道成寺」は中村勘九郎が女方の白拍子、尾上右近が立役の狂言師という顔合わせが新鮮で、終盤早い間で踊りこんでいくところに若々しさがはじける。第二部は他に勘九郎の美濃部伊織、尾上菊之助の妻るんで「ぢいさんばあさん」。坂東彦三郎の下嶋甚右衛門、中村歌昇の宮重久右衛門が好演。
 第三部「義経千本桜 吉野山」は、早見藤太が出ず浄瑠璃は竹本のみという渋く落ち着いた演出。舞台も目慣れぬためか、いつもより寂しげに映るが、尾上松緑の忠信による戦物語の骨太な精悍(せいかん)さが引き立った。中村七之助の静御前。
 「信濃路紅葉鬼揃(しなのじもみじのおにぞろい)」の前半は能仕立て。中村橋之助ほかの鬼女(きじょ)が綺麗(きれい)に揃(そろ)った舞を見せ、さすがに坂東玉三郎の動きの軌跡の美しさに目が奪われる。松緑の山神の登場からはぐっと歌舞伎らしく、華やかな幕切れまで楽しませる。七之助の平維茂(これもち)。二十六日(二十日は休演)まで。 (歌舞伎研究家)

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