税制改正での賃上げ、効果あるの? 不公平な税制是正は議論持ち越し 「分配」実現には遠く

2021年12月11日 06時00分
 10日に決まった与党税制改正大綱で、岸田文雄首相が重視する賃上げを促す税制は拡充されたものの、安倍・菅政権時代の制度がほぼ踏襲されることになった。そのため、企業が今後も、法人税の優遇だけで大幅な賃上げに動く可能性は小さい。将来の金融所得課税の強化は実施時期が明示されず、首相の掲げる「分配」の実現にほど遠い。(原田晋也)

◆「従来型踏襲」にトーンダウン

 日本の平均賃金は2020年で約3万9000ドル(約440万円)と30年間ほぼ横ばいで、経済成長の足かせになっている。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、OECD平均にもはるかに及ばない。首相は10月の就任時から「成長と分配」を強調し、現行の賃上げ税制の見直しを掲げていた。
 だが、与党は今回の大綱で、安倍政権発足後に導入され、大きな効果がなかったとされる従来の賃上げ税制の枠組みをほぼ踏襲。給与増加額の控除率は拡大したが、首相が力点を置いていた「一人ひとりの給与を引き上げた企業を税制で支援していく」とする仕組みは入らず、トーンダウンする形となった。

◆赤字になりそうな企業は見送りも

 「賃上げ税制は企業が成長した場合の側面支援でしかない」。第一生命経済研究所の熊野英生氏は、賃上げ税制に依存した給与引き上げの限界を指摘する。「例えば、賃上げをしようと考える企業があっても、赤字になるリスクがあれば税優遇が受けられなくなるため断念する。重要なのは成長戦略で企業の将来不安を除くことだ」と訴える。
 そもそも、税の優遇を受けられるのは、法人税を納めていることが前提のため、赤字企業は対象から外れる。国税庁の調査では、日本企業の6割が赤字とされ、その従業員には恩恵がないことになる。自民党の宮沢洋一税調会長は10日の記者会見で「賃上げ税制の(法人税優遇で)1000億円台の減収になるが、効果は限定的であることは間違いない」と早くも認めた。

◆金融所得課税は見送り

 首相が就任早々に実施を断念した金融所得課税の強化は今後の検討課題とはなったが、与党は結論を出す時期を明記しなかった。
 給与などの所得には所得税と住民税を合わせ最高55%の税が課される一方、株式の配当や売買益にかかる金融所得への課税は一律20%。富裕層ほど資産に占める金融商品の割合が高く、所得が1億円を超えると税負担率が低くなる問題が指摘されてきた。
 金融所得課税の強化について、今回の大綱でも「検討する」の文言は盛り込まれたが、与党の税制改正大綱で金融所得課税の強化が初めて触れられた17年度の大綱から、書きぶりはほぼ変わっていない。成長戦略を打ち出せない中、岸田政権の分配政策もかすみつつある。

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