コロナで借家を追われる危機が急増 給付金の支給決定34倍も…無期限の家賃補助が必要

2021年12月15日 06時00分
 コロナ禍で収入が減少し、借家を追われそうな人が増えている。自治体が家賃を補助する「住居確保給付金」の支給が決まった件数は2020年度、前年から約34倍に激増した。給付金の支給は緊急措置として最長15カ月で打ち切られるため、借家人を支援する民間団体は14日、低所得者らを対象とした常設の家賃補助制度を求める集会を開いた。(畑間香織)

◆「仕事を捨てるか、ホームレスになるか…」

ピアニストが受け取った11月までの住居確保給付金の支給決定通知書

 「家賃の支払いが一番つらい」。ピアニストの60代女性は、東京都内で家賃10万円の借家に夫と暮らす。昨年12月から住居確保給付金を使い、2人世帯の上限月6万4000円が自治体から大家に払われている。
 コロナ前、女性は個人事業主としてレストランや結婚式場で演奏し、平均月収は約37万円。昨年3月から1年仕事がほぼなかった。現在はピアノ教室などで働き、月収は約5万円に激減し給付金を申請した。
 かつて家の購入を考えたものの芸能の仕事は住宅ローンを組めないと銀行に断られた。ピアノを置けて騒音問題を気にせず住める借家を見つけ、30年以上暮らす。給付金の終了を11月に控えた時「今の仕事を捨てるか、ホームレスになるかを考えた」と明かす。
 給付金は特例で3カ月の延長が決まったが、元の職場での仕事再開は見通せない。「生活保護を受ける場合、ピアノを処分しなければならないか心配。今の家に住み続けたい」と願う。

◆住宅確保給付金の支給はコロナで急増

 厚生労働省によると、住居確保給付金の新規支給決定件数は20年度、約13万5000件。失職などが支給条件だったのを収入減でも受けられるように条件を緩和して急増した。
 21年度も毎月4000~7000件前後と、19年度以前の1年分の規模だ。千葉県茂原市自立相談支援センターの田中君徳さんは「家賃を払えなかったり、退去せざるを得なくなったりという相談が今も多い」と状況を説明する。

◆「住まいの危機」と署名提出

 14日には借家人を支援する全国借地借家人組合連合会が都内で集会を開き、常設の家賃補助制度を求める署名約8800筆を野党4党に提出。田中祥晃会長は「コロナ禍は住まいの危機をあぶり出した」と訴えた。
 一方、低所得者らの住まい確保を支援する全国居住支援法人協議会が給付金利用者を調べたところ、終了時の「無職」は6・2%いた。日本福祉大の藤森克彦教授(社会保障政策)は「就労できていない人が一定程度おり、期限のない家賃補助制度の検討が必要だ」と指摘する。

住居確保給付金 生活困窮者に期限付きで家賃を補助する制度。主に離職者が対象だったが、コロナ禍の緊急策として利用条件を緩和、休業などで減収した人も使えるようにした。利用には収入と資産の条件を満たす必要があり、自治体により支給額も異なる。東京23区の単身世帯の場合、月収13万7700円以下、預貯金50万4000円以下が条件で、5万3700円が原則3カ月支給される。

◆「持ち家促進」の住宅政策が背景に

 コロナ禍で収入が減った人々が家賃の支払いに苦しむ背景に、日本の住宅政策が一戸建て住宅の購入を促す「持ち家」中心だったという経緯がある。公営住宅の建設や家賃補助といった低所得者向け支援は海外と比べ不十分で、識者は「借家」向けの政策を見直すべきだと訴える。
 持ち家の取得を促すのは、長年にわたる住宅政策の柱だ。戦後、政府は政府系金融機関を通じて長期低金利のローンを供給、中間層が持ち家を買えるよう支援した。終身雇用と年功賃金を前提とした正社員が家を買う環境を整え、建設数を増やし経済成長を促した。
 
 10日に決まった与党税制改正大綱でも、住宅ローン減税の適用期間の延長が盛り込まれた。政策が持ち家を重視しているのは今も変わらない。
 一方で、低所得者向けの借家の政策は縮小。公営住宅の着工数は1970年代から減り、国から自治体への建設補助金が廃止された。低く抑えていた家賃も入居者の収入などに応じて変化する制度に変わり、入居へのハードルは上がった。
 約30年前のバブル崩壊後は非正規労働者や単身者が増加。持ち家を買おうにも買えず、都市部の賃貸住宅や実家で暮らし続ける人が増えた。14日に都内であった借家人支援団体の集会でも、出席者から「家賃が払えない生活困窮者の住宅を保障すべきだ」と求める声が上がった。

◆先進各国と比べ公的保障が乏しい日本

 欧州をはじめとした先進国では、公営など公的支援がある住宅の建設を増やしている。求職活動などを条件とせず、幅広い人が使える住宅手当制度を常設。住宅政策を社会保障の一環に位置付ける国が多い。日本の公的な家賃補助は緊急策以外、生活保護に含まれる住宅扶助などに限られる。
 住宅政策に詳しい神戸大の平山洋介教授は「非正規で働いてきた人が高齢化するなど低所得者層は増える傾向にある。家賃の公的保障は貧困の予防につながるため、将来の社会安定にとって合理的だ」と強調する。

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