憩いの銭湯 まちの拠点に 滝野川・稲荷湯 築94年の長屋再生

2021年12月16日 07時04分

長屋で「竹小舞」と呼ばれる土壁の下地となる格子の編み方を十亀脩介さん(右手前)から教わる体験会の参加者たち=いずれも北区で

 下町情緒漂う北区滝野川の銭湯「稲荷湯」(国有形文化財)で、かつて従業員の住居に使っていたとみられる二軒長屋を再生するプロジェクトが始まった。伝統的な土壁左官工法を再現する体験会も開かれ、銭湯は地域の交流の場としての機能を広げている。
 「地域の人が集う銭湯を、さらにいろんな人が利用できるようにしたい」。十一月下旬、修復作業のため柱がむき出しになった長屋で、プロジェクトを進める一般社団法人「せんとうとまち」(文京区)の理事サム・ホールデンさん(31)が話した。

再生プロジェクトがすすめられている稲荷湯に隣接する長屋

 長屋は木造平屋建てで、一九二七(昭和二)年に建築。一軒分の間取りは玄関の奥に三畳間、その隣に押し入れ付きの六畳間と廊下、便所が付いていた。最近までは一部を除いて長く空き家だったそうで、老朽化が激しく、大幅な修繕が必要だった。
 この日は、土壁の下地となる「竹小舞」を体験会の参加者で編んだ。以前は各地で使われていたが、ライフスタイルの変化や新建材の登場などに伴い使われなくなった。

職人(左手前)の指導で「竹小舞」を編む体験会の参加者

 職人が竹を格子状に編む方法を見せながら、「ポイントは竹を木枠の端まできっちり編まず、隙間を作ること。揺れやきしみも吸収します」などと説明していった。
 参加した神奈川県鎌倉市の古阪幸代さんは「土壁の中を知れて感激。編み方の工夫に、日本人の知恵を知りました」と笑顔。長屋は来春にも展示やイベントができるコミュニティースペースに生まれ変わる。作業を見守っていた稲荷湯オーナーの土本俊司さん(60)は「銭湯自体を知らない人にも庶民の憩いの場であると知ってもらうきっかけになれば」と期待を寄せた。
 建築家らでつくるせんとうとまちは、銭湯の支援活動に取り組む。二〇一八年に稲荷湯を調査したところ、建築文化的な価値が非常に高いことが判明。国有形文化財への申請を手伝い、米国のワールド・モニュメント財団(WMF)の危機遺産リストにも申請、いずれも選ばれた。修復や保全には、アメリカン・エキスプレス社から約二十万ドルの支援なども決まった。
 米国出身のホールデンさんは、長屋再生プロジェクトの中心メンバー。東京大大学院などへの留学で一四年に来日し、銭湯に魅せられた。
 「銭湯は人々が出会い、交流するパブリックスペース(公共空間)。米国では大通りに面した公園などがそうした機能を担うが、徒歩圏内の人が通う銭湯は路地裏にあることが多い」と指摘。交流は銭湯から周辺の酒屋や食堂、個人商店などへと広がっており、「人間関係の中で成り立っていることが分かる」と言う。
 現在、都内の銭湯は五百軒に満たず、ホールデンさんの来日時から三割がなくなった。「銭湯は地元の人の顔が分かり、街の顔が見える場所。なくなると街の均質化が進む。プロジェクトでは、そうした公共的な機能を拡張させたい」と意気込む。
 長屋づくりの状況などは、せんとうとまちのホームページやフェイスブックで発信している。
<稲荷湯> 旧中山道近くにあり、大正時代初期創業と伝わる。現在の浴場兼主屋は1930(昭和5)年築。正面入り口は入り母屋屋根の破風の上に、唐破風と千鳥破風が3段に連なり、東京型銭湯建築の特徴を持つ。2019年に長屋も含めて国有形文化財に登録、ワールド・モニュメント財団の20年版「危機遺産」リストに選ばれた。

 文・中村真暁/写真・安江実
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