<中村雅之 和菓子の芸心>「黄味瓢」(東京都中央区・空也) 狂言にもなった念仏

2021年12月17日 07時17分

イラスト・中村鎭

 銀座を代表する和菓子の老舗といったら、明治17(1884)年創業の「空也(くうや)」。この店の代名詞とも言えるのが「空也もなか」だ。
 この最中(もなか)の誕生には、九代目市川團十郎が関わっている。懇意だった初代店主が楽屋を訪ねると、團十郎はひょいと小引き出しから買い置きの最中を取り出し、火鉢の上の網に乗せ炙(あぶ)り始めた。そうすると香ばしく、パリッとなり絶品だった。
 ここから着想して作られたのが、瓢箪(ひょうたん)の形をした「空也もなか」だった。もちろん、皮は、予(あらかじ)めしっかりと焦がしている。
 「空也」で、もう一つ、瓢箪の形をした和菓子がある。11月から4月限定で売られている「黄味瓢」だ。その名の通り、黄味餡(あん)の中に白餡が入った練り切り。可愛(かわい)い瓢箪の形をしている。
 なぜ、こうも「空也」は、瓢箪に拘(こだわ)るのかと言えば、店の名前そのものにある。
 「空也」は、「踊(おどり)念仏」を広めたことで知られる平安時代中期の僧・空也に由来する。
 初代の店主が、「踊念仏」の信者だったからだ。
 「踊念仏」では、幾つもの瓢箪を付けた棒を振り回しながら踊る。「空也もなか」「黄味瓢」の形は、これに因(ちな)んだものだ。
 「踊念仏」は狂言にも取り入れられている。「福部(ふくべ)の神(しん)」だ。能「輪蔵(りんぞう)」の中で演じられることもある。
 唱えたり、踊ったりしながら、賑(にぎ)やかに京の北野天満宮に参詣した信徒たちが、末社の「福部の神」の前で、瓢箪を打ち鳴らし、謡い踊りながら、念仏を唱えるという趣向だ。 (横浜能楽堂芸術監督)
<空也> 東京都中央区銀座6の7の19。(電)03・3571・3304。1個350円。

毎年、京都・北野天満宮の節分には、茂山千五郎家が改作し、鬼が乱入する狂言「福部の神」を奉納する=上杉遥撮影


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