直木賞の澤田瞳子さん、受賞第一作『輝山』刊行 石見銀山で生きた人描く

2021年12月18日 12時00分
 作家澤田瞳子さん(44)が、直木賞受賞第一作『輝山きざん』(徳間書店)を出した。幕府の天領だった江戸後期の石見銀山を舞台に、銀の産出を支える人々の生き様を描いた歴史群像だ。澤田さんは「いまは銀を掘らず、見えにくくなっているけど、そこに確実に生きた人たちがいるということを知ってもらえたら」と話す。(北爪三記)
 物語は、石見銀山を管轄する大森代官所の中間ちゅうげん・金吾が軸。江戸から来た金吾は、命の危険にさらされながら間歩まぶ(坑道)でくさり(鉱石)の採掘に当たる掘子ほりこたちや、鏈などを運ぶ柄山負がらやまおいの少年、吹屋ふきや(製錬所)で働く職人らと出会う。町で起きる騒動に直面する中で、次第に彼らと心を通わせていく。具体的な銀の採掘や製錬の様子、代官所の統治のありようなどが巧みに織り込まれている。連載小説として2018年3月~20年5月、京都新聞や山陰中央新報、新潟日報など地方紙9紙に掲載された。
 澤田さんが石見銀山に着目したのは、数年前に観光で訪れたのがきっかけだった。かつては山を中心とする集落ごとに大勢の人が暮らし、分業制で働いていたこと、いまはそれが消えてしまっていることに興味を持ち、「小説で書いたら深く知ることができるかな」と思っていた。
 「気絶けだえ」という当時の病も現地で初めて知った。鉱石を採掘する時、粉じんなどを吸い込むうちに罹患りかんするもので、〈この地の男たちは、みな三十歳を過ぎれば一人また一人と気絶に罹り、短い命を終える〉。定めともいえるこの「短い命」は、本作の柱の一つだ。
 「ただ、悲惨な話にはしたくなかったんですよね」と澤田さんは言う。「それでも働く人が代々居続けた、その事実のほうが大事かなと。彼らは自分の意思で働いて、ちゃんと大金も稼いでいた。そこの部分を書きたいと思いました」
 さらに、「そういう彼らが生きた社会」に澤田さんは注目する。銀を産出する現場には、代官所による支配構造とは別に、鉱山を経営する山師やましを中心とする掘子たちのグループがあり、その先には吹屋などの工程がある。
 「古い時代って、個々人が勝手に生きていたように思われがちじゃないですか。でも、社会はその時々で成立したシステムがあって、その中で人々が有機的に生きていた、ということを書きたいんです」。かねて澤田さんがこだわってきた視点だ。
 本作は、信頼していた先輩で直木賞作家の葉室麟さんの思い出も重なる。取材で石見銀山を訪れた際、葉室さんと電話で話をした。その1カ月余り後の17年12月に葉室さんは亡くなり、電話が最後の会話になった。悲しみと混乱の中で翌18年3月に始まった連載。葉室さんが得意とした武家物を意識した面もあるという。
 「そういう意味では、非常に思い出深い作品になりました」
 今夏に直木賞を受賞した『星落ちて、なお』は、明治―大正の東京を舞台に日本画家・河鍋暁翠かわなべきょうすいの人生を描いた。今回は「全く違うタイプの作品なので、どういうふうに読んでいただけるのかな、とワクワクしますね」とほほ笑む。
 11年に奈良時代の大学寮が舞台の『孤鷹こようの天』でデビュー。「自分の知らないことを知りたい」という思いで書き続けている。澤田さんが朗らかに言う。「直木賞をいただいて『近代いけるじゃん』という自信がついた。いくつかやってみたいことがあるし、古代もいっぱいやりたいことがあるんです」

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