リニア開業、2029年以降にずれこみへ 国の中間報告に静岡県は不満表明 水問題でJR東海との溝深く

2021年12月20日 11時31分
 静岡県が大井川の流量減少に懸念を示し、着工が見送られているリニア中央新幹線の静岡工区を巡り、国土交通省の有識者会議は19日、中間報告を取りまとめた。適切な対策で流量は維持できるとし、JR東海に地元との十分な意思疎通などを求めた。県は報告に不満をにじませ、同社と協議を続ける方針。2027年開業に向けた建設作業は既に1年半遅れており、29年以降となるのは必至だ。(今村節、中野祐紀)

◆「いいとこどりの説明は困る」と静岡県

中間報告を取りまとめた国土交通省の有識者会議メンバーら

 中間報告では、トンネル掘削で発生する湧水を大井川に戻せば、中下流域の流量は維持され、地下水への影響も極めて小さいと指摘。湧水を戻す方法をJRと地元で協議するよう促した。中間報告を受け斉藤鉄夫国交相は近くJR東海に直接指導する方針。
 JR東海の宇野護副社長は会議後、「私どもの取り組みに一定のご理解をいただいた」と語った。
 しかし、静岡県の難波喬司副知事は「いろいろ疑問点がある。中間報告の内容をもって、いいとこどりをされるような説明をされると大変困る」とくぎを刺し、溝の深さを印象づけた。

◆大井川流量減少を懸念する静岡県

 静岡県内はリニアのルートから大部分が外れ、駅もない。川勝平太知事は当初、建設に賛成していたが、同社が「何もしなければ大井川の流量が最大毎秒約2トン減る」と公表すると、対策を求めた。
 水面下でのやりとりをへて、決裂が表面化したのは2017年。川勝知事は「全量を戻すと明言していない」「どのような地域へのメリットがあるのか」「考え直せ、ということだ」と激しく反発した。
 同社は「着工に向けた県との協定締結は大筋合意していた」と最終段階だったと説明する。一方、県の担当者は「(知事表明は)突然だったが、『何でちゃんと全量戻しを表明してくれないんだ』といういら立ちだった」と解説する。
 翌年、JR東海は「原則として全量を戻す」と発表したが、「原則」との表現に県は納得しなかった。
 大井川は流域約62万人の水道用水などに使われている。慢性的な水不足で毎年のように取水制限があるといい、「水が減ると影響が大きい。流域の住民はそこを一番心配している」と県の担当者は言う。

◆生態系への影響や残土問題も懸念材料

 国交省は20年に有識者会議を設置し、仲介役を買って出た。今回の中間報告で水問題は一区切りとなるが、JR東海は工事の安全確保と、県の求める「全量戻し」を両立させる解決策を示せていない。県は独自の専門部会で引き続き同社と対話する方針で、着工に一歩前進とは言い難い。
 リニアの沿線7都県で未着工は静岡工区だけ。工事や試運転で最短でも約7年半かかり、27年開業に向けた着工のリミットは20年6月だった。当時、金子慎社長は川勝知事と会談したが物別れに終わり、それから1年半がすぎた。
 生態系への影響や残土問題など、懸案は水問題だけではない。同社幹部は「静岡の着工が決まらないと完成時期が見通せず、延期の正式表明すらできない」と嘆く。開業は29年以降となるのが濃厚だ。
 27年開業を見込んで準備を進めてきた関係者からは、戸惑いの声も聞かれた。名古屋市の上場企業トップは「地域住民、行政、経済界が準備してきたまちづくりなどの計画が崩れ始めており、現状は大変残念」と話した。
 日本大学危機管理学部の福田充教授は「静岡県にとってリスクが大きいのに、利益がほとんどないことや、JR東海が地元と信頼を醸成できなかったことも解決を難しくした。まずは信頼構築を優先的に進め、丁寧な説明を尽くす必要がある」と指摘した。

 国土交通省の有識者会議 リニア工事による大井川の水量対策などについて、県の有識者会議での県とJRの協議が進まない状況を受け、国交省が提案し、2020年4月に立ち上げた。同会議の委員2人を含む専門家7人が参加。工法や対策を評価した上で、工事影響の回避、低減策を探る場とされ、「水資源」「生態系」の順で議論する。水資源ではこれまで13回実施。


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