米ニューヨーク市で移民ら「非市民」にも投票権 画期的な改革は全米最大都市をどう変える?

2021年12月22日 10時41分

米ニューヨーク市のチャイナタウン。多様な民族が集まる同市では160以上の言語が話されているといわれる。

 米ニューヨーク市で今月、市民権のない住民でも永住権などがあれば市の選挙での投票を認める条例が成立した。現在の登録有権者約560万人に加え、米国民でない80万人以上が新たに投票権を持つ見通しだ。移民など少数派の声が届きやすくなる期待の半面、「市民権を取る動機が薄れる」といった懸念も。画期的な改革は全米最大都市をどう変えるか。(ニューヨーク・杉藤貴浩、写真も)

◆移民にも地域での政治参加の機会拡大を

 新しい条例では、ニューヨーク市に30日以上居住し、グリーンカードと呼ばれる永住権か労働許可証を持っていれば、市長選や区長選、市議選などに投票することができる。子どもの時に親に連れられて不法入国した若者らの強制退去を猶予する米政府の救済策「DACA」の対象者も含まれる。今月9日に可決された。2023年1月から投票が可能になる。
 市民権のない住民への地方選レベルでの投票権付与は、東部メリーランド州内の複数の都市などで認められているが、全米最多の人口830万人を誇るニューヨーク市での実施は画期的だ。

米ニューヨーク市のインド系住民の多い地区。同市では移民らの政治参加の機会確保が課題となっていた。

 条例を推進してきたドミニカ共和国系のイダニス・ロドリゲス市議は可決直後、「今日、歴史がつくられた」と表明。「選挙に勝とうとする人は今後、上流階級の地区に費やすのと同じ時間を、新たに選挙権を持つ人々の地区に使わなければならない」と述べた。
 移民国家米国を象徴するニューヨーク市では多様な国や地域出身の人々が暮らし、市経済を支えるが、古くからの市民との経済格差は大きい。とりわけ市民権を持たない人が多い移民第1世代は政治参加の機会が乏しく、生活改善や地位向上を十分に訴えられないとの課題があった。
 地元出身で自身は市民権を持つ自営業男性(40)も取材に「多様性の街として、市民権がない住民の意見を取り入れることも重要だ」と理解を示した。

12月、米市民権を持たない永住者らへの投票権を認めたニューヨーク市議会

◆共和党などに反発の動きも

 一方、野党共和党の市議らは条例成立前から「投票権拡大は違法だ。市民権のない人々は母国で投票できる」と強調。少数派住民の支持が厚い与党民主党が改革を口実に選挙結果を有利に操作しようとしているとして、法廷闘争に持ち込む構えを見せている。
 民主党内でも、投票権を持つことで、移民らが市民権を持ち「米国民」になる動機が弱くなると指摘する声がある。
 今月限りで任期を終える同党のデブラシオ市長は条例に拒否権を行使しない考えを示したが、「人々が全てのチャンスを追求するため、市民権の取得を勧めたい」とも述べた。新市長に当選した同党のエリック・アダムズ氏は条例を支持しており、投票開始までの世論の集約や具体的な制度設計に手腕が問われる。

◆移民問題に詳しい教授「税金払う以上は移民にも発言権」と評価

オンライン取材で移民などへの投票権について話すロン・ヘイダック教授

 ニューヨーク市の投票権拡大について、移民問題に詳しいサンフランシスコ州立大のロン・ヘイダック教授(政治学)は「南部を中心に郵便投票の制限などで少数派の政治参加を奪おうとする動きがある中、対照的な改革だ」と評価する。
 ヘイダック氏によると、ニューヨーク市では公民権運動が盛り上がった1960年代後半から市民権のない移民らも地域の教育委員会の選挙に投票してきた歴史がある。この投票は市の教育制度改革の中で2000年代前半になくなったが、同氏は「こうした事例から税金を払っている以上、発言権を持つべきだという考えが根付いてきた」と指摘する。
 今回の改革では、市民権を持たない多くの低所得層が投票に参加し、リベラルとされるニューヨーク市政がより急進化するとの懸念が、保守派を中心に強いとみられる。
 ヘイダック氏は「市内には米国外生まれの人口が半数を超す地区もあり、市議選の接戦区などでは新しく投票権を持った人々の動向が鍵を握るだろう」と指摘する。ただ、「移民と一言で言っても、ニューヨークのような大都市では出身国も多様で所得格差も大きい。移民全体が同じ投票傾向を持つことは少ないのではないか」と予測した。

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