「脱炭素」が加速する 飯尾歩・論説委員が聞く

2021年12月28日 07時44分
 この秋、英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第二十六回締約国会議(COP26)は、世界が「温室効果ガス排出ゼロ」という共通の目標を確認し合う節目の会議になった。化石燃料がもたらした繁栄の夢を捨てきれず、脱炭素による転換の波に乗り遅れそうな日本。大きくかじを切れるのか。温暖化問題に取り組むNGO・気候ネットワーク元国際ディレクターの平田仁子さんに聞きました。

<パリ協定> 2015年、パリのCOP21で合意された、京都議定書に代わる温暖化対策の国際ルール。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つという当初の目標を、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告を踏まえ、今回COP26で「1.5度以内」に改めた。

◆「公正な移行」進む海外 気候ネットワーク元国際ディレクター・平田仁子さん

 飯尾 「パリ協定が決まった時以来の成果」とも言われるCOP26ですが、どのように評価しますか。
 平田 平均気温の上昇を産業革命前と比べ一・五度に抑えることを目指していくことが、はっきりと決議されました。世界が「一・五度」に向き合った。本当にチャレンジングで、本当に大変なことですが、政治的なシグナルとしては、強くて前向きなものが発信されたと思います。とは言うものの、深刻化する気候危機を解決するために必要な行動が確約されたわけではありません。
 飯尾 会議直前の国連報告書によると、各国が今掲げている二〇三〇年までの温室効果ガス削減目標がすべて実現されたとしても、今世紀のうちに二・七度上昇してしまうようですが…。
 平田 なので、来年中に今の削減目標を再度見直し、強化すること、そのための閣僚級会合を開くことも決めました。目標を引き上げ、ギャップを埋めていく道がつながれたのも貴重な成果の一つです。
 飯尾 シグナルは出た、次はギャップを埋める行動をということですね。まず何をやらなければいけないですか。
 平田 それを示しているのが「石炭火力の段階的削減」という、もう一つの重要な決定です。再生可能エネルギーの導入をさらに加速し、石炭火力の廃止、ひいては脱化石燃料を急ぎなさいということです。
 飯尾 なぜ、まず石炭を。
 平田 世界中で排出されるエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)の約半分が石炭利用によるものなので、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)をはじめ、どんな研究機関のシナリオを見ても、一・五度目標を実現するためには、三〇年までに約八割の削減が必要だと言っています。石油やガスはまだしも、石炭に関しては「後回し」という選択肢はありません。急速に減らしていかないと、一・五度目標、すなわち「五〇年実質排出ゼロ」の道筋に整合しないんです。
 飯尾 議長国の英国は、主要国は三〇年代、そのほかの国々は四〇年代までに、石炭火力発電を段階的に廃止するよう呼びかけました。産炭国のポーランドやベトナムなどの途上国も新たに賛同し、新規建設や投資の停止を表明しましたが、日本は参加していません。その結果、またしても、温暖化対策に後ろ向きな国に国際NGOから贈られる化石賞受賞の“栄誉”に浴することになりました。
 平田 今回私はグラスゴーには行かず、現地の人たちとのオンライン会議に参加していましたが、カナダ、化石燃料の輸出やめるって、すごいね。インドが七〇年排出ゼロを宣言したよ、ベトナムがこう言った、インドネシアがこう言ったよって、途上国の名前も頻繁に出てくるようになったのに、こんな新しい動きがあるんだよというポジティブな話題の中にはニッポンが出てこない。みんなの視野から落ちてきちゃった感がある−。
 飯尾 石炭火力にこだわるニッポン。もはや置いてきぼりですか…。
 平田 長崎県西海市の「松島火力発電所」。電源開発(Jパワー)が運営する一九八一年運転開始の超古い、非効率な石炭火力発電所なんですよ。前の環境相が言っていた廃止の対象になるやつです。それを止めるのをやめて、古いボイラーは維持したまま、石炭から水素を取り出して燃やす設備を新たに設置して、その分だけ燃焼効率を高めるという「GENESIS松島」なる計画が進んでいます。CO2の削減効果はほとんどありません。それでも現環境相は環境アセスメントに際し、「容認」の意見を付けました。ジェネシス、「創世記」なんてすごい名前がついているものの、石炭火力の延命にすぎません。高度経済成長の幻影を追いかける旧態依然の産業構造、「変われない日本」の象徴ではないですか。
 飯尾 「変わる世界」と裏腹に−。
 平田 世界は今、欧州を中心に脱炭素社会への「公正な移行(ジャストトランジション)」を加速させています。
 飯尾 と言いますと。
 平田 石炭はじめ化石燃料からの脱却は、多くの産業に大きな構造転換を迫っています。排出ゼロ社会への移行による影響を踏まえ、新しい仕事と雇用を創出し、経済の持続可能性を保つための仕組みが必要です。このような取り組みを「公正な移行」と呼んでいます。
 飯尾 環境問題は経済問題なんですね。とりわけ温暖化対策に関しては。
 平田 「大転換」の影響が特に大きな地域に対し、炭素税を重点的に使って雇用をつくる、産業をつくる、再エネのファームをつくる、蓄電池のプラントをつくる、職業訓練の場をつくる、システムのセンターをつくるなどして、雇用を吸収する…。このような地域の未来図について、企業や国の視点だけでなく、労働者の視点、自治体の視点、持続可能性の視点なども踏まえて、幅広く議論する必要があると思います。一企業だけでは解決できない話、地域の課題として解決しないといけない話です。
 飯尾 地域の課題として、ですか。
 平田 「エネル」という企業、ご存じですか。イタリア最大の発電事業者です。エチオピアとかチリとか、いろんな国に石炭火力いっぱい持っているんですが、二七年までにゼロにするって、ことし決めたんです。石炭火力は全部閉じていくと表明したときは、立地地域はもちろん反対し、さまざまな議論がありました。それでもそれぞれの地域に再エネのファームをつくったり、さまざまな脱炭素ビジネスを展開し、出口をつくりながら地域ごとに転換を進めてきています。結局再エネ企業としてビジネスは生き永らえていくでしょうし、うまくいけば前倒しで石炭ゼロにできそうなところまで来ています。エネルの社長は言いました。「必要なのは勇気だね」って。
 飯尾 かっこいいじゃないですか。
 平田 インフラの転換にはかなりの時間がかかります。でも勇気を持てば変えられることですし、企業としても生き残る。生き残るためには、脱炭素の波に乗らなければならない時代なんですよ。
 飯尾 今変わらなければ、生き残れないということですね。
 平田 そうそう、これ見てください。今月初め、半世紀の歴史を持ったスコットランド最後の火力発電所(ロンガネット発電所、一六年閉鎖)の煙突の爆破に立ち会った、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相のツイートです。
 <これは、スコットランドでは石炭火力が終わったという決定的な転換の象徴です。長年ここで働いてきた皆さんは、複雑な思いで今日を迎えたことでしょう。けれど、私たちは化石燃料からの転換を、計画と投資によって、コミュニティーを置き去りにしないで実現できるということに、確信を持っています>
 こちらも、かっこよくないですか。こんなふうに世界は動いているんです。

<ひらた・きみこ> 1970年、熊本県生まれ。出版社勤務を経て、98年の設立時から気候ネットワークに参加。NGOの立場から、気候変動に関する国際交渉や、気候変動・エネルギー政策に関する研究、分析、提言などの活動に携わる。2021年ゴールドマン環境賞受賞。社会科学博士。 


関連キーワード


おすすめ情報