「住み続けるには危険すぎる」街…自宅に迫る波、崩れる地盤、割れる賛否 でも探す友好の言葉

2022年1月3日 06時00分
<連載「ワン・プラネット 深まる気候危機」>

米カリフォルニア州パシフィカ市で2020年2月、大潮で岸壁を越えて道路を洗う大波=アラン・グリンバーグさん提供


 澄んだ青空のもと、焦げ茶色の砂浜に白い波が寄せては返していく。太平洋に面した米西部カリフォルニア州の街パシフィカ。気持ちの良い昼下がりにもかかわらず、庭先に海を望む1軒家で20年暮らすアラン・グリンバーグ(72)の表情は浮かない。
 2020年12月14日のことだった。自宅の庭から海を撮影していたところ、波が高さ約5メートルの岸壁を乗り越え、押し寄せてきた。

米カリフォルニア州パシフィカ市で2020年12月、アラン・グリンバーグさんの自宅の庭に乗り越えてきた波の連続写真。アランさんは押し流されて足を負傷し、カメラは壊れた=アラン・グリンバーグさん提供

 アランは隣家との間の路地に押し流され、足に切り傷を負った。眼鏡はなくなっていた。波にのまれ、海に引きずりこまれなかったのが不幸中の幸いだった。最近は冬の波が激しく、窓に板をはめないといけなかったが、こんな経験は初めてだった。
 「かつて海岸線は30メートルも先だった」

米カリフォルニア州パシフィカ市の自宅で2021年11月、1980年ごろに撮られた写真の現在位置を示すアラン・グリンバーグさん

 アランは1980年ごろに撮影された写真を取り出し、今いる場所を指さした。カリフォルニア州では近年、風と波が強まっているとのデータもあり、アランも海岸浸食など気候変動の影響が「強まっている」と感じる。
 周辺では、海岸浸食で地盤が崩れ、住宅が取り壊された更地が点在。波が道路にかぶり、立ち入り禁止になるケースも相次ぐ。やはり海沿いに住むシンディ・アボット(63)は「付近では地盤が波に削られて道路が何度も陥没して、2016年には6カ月も交通が制限された」と振り返り、「海面の上昇が見られるわけではないけれど、嵐や潮の状況は、目の前で確実に変わってきている」と語る。

◆転居促す政策に「不動産価値落ちる」の声も

 危機感を強める州や郡、各市は沿岸区域で増改築を制限したり、自治体が住宅を買い上げて将来的な転居を促すといった政策「マネージド・リトリート(管理退去)」の導入を模索する。しかし、住民の賛否が割れ、思うように進んでいない。

米カリフォルニア州パシフィカ市の自宅で、管理退去に反対する看板を手に語るスザンヌ・ドレイクさん

 アラン宅から南に約1キロの海岸沿い。スザンヌ・ドレイク(48)は懸命に働き、08年にここに居を構えた。対象地域に指定された場合、安全な家でも「住宅ローンや損害保険の負担が増し、不動産の価値は落ちる」などと強調。管理退去に反対する看板をベランダに掲げた。
 高潮の被害を受けた近隣住民もおり、気候変動を否定するわけではない。それでも、「各地の状況は異なるのに一律の政策で対応するのは間違っているわ」。いつ、どこに、どのような影響が出てくるのか。各地域によって異なり、まだ未知の部分も多いと感じている。「それなのに、いったん危険区域の烙印らくいんを押されてしまったら、もう取り除くことはできない」

◆「対立は何も生まない」

 カリフォルニア州議会で昨年11月、州が沿岸の危険区域の住宅を買い入れて住民に貸し付け、危険が迫ったら退去させる法案が可決された。管理退去に向けた画期的な一歩とされたが、ニューサム知事は拒否権を発動。政治的に敏感な問題になっている。
 しかし「住民同士の対立は何も生まない」と、シンディは対話を模索している。勤務先の美術館を会場に、住民同士が話し合う取り組みを始めた。自身は「ここは住み続けるには危険すぎる」と管理退去に賛成の立場だが、賛成・反対派の住民がともに友好的な言葉を探すプロセスを組み入れ、感情的な言い合いに陥らないように工夫している。
 今は新型コロナウイルスの感染拡大で大規模な集会は開けないが、シンディはインターネット会議システムを採り入れながら活動を続けている。「防潮堤を築いて海と陸を遮断するのか、引っ越すのか。将来について話したい」(米西部カリフォルニア州パシフィカで、吉田通夫)
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 地球規模の気候変動は、生態系や人々の生活を一変させ、民主主義をも脅かしています。本紙は今後も随時「ワン・プラネット」を掲載する予定です。

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