半世紀ぶり、砂漠に復活した湖が鳴らす警鐘「水がなくなる時は敦煌が終わる時だ」
2022年1月4日 06時00分
<連載「ワン・プラネット 深まる気候危機」>
シルクロードの交易都市として栄えた中国北西部、甘粛省敦煌 市。昨年12月上旬、街から北へ50キロメートルほど車を走らせると、砂漠の中に白く凍りついた湖が現れた。湖岸には水草が茂り、水鳥のさえずりが聞こえる。
湖は数年前に突如出現し、地元の住民を驚かせた。年々水量が増え、今や面積は24平方キロメートルに及ぶ。「敦煌には水辺がなかったから、最近は遠出して湖を眺める市民も増えている」と、地元ガイドの孔燕芬 (33)は笑う。
湖は「哈拉諾爾 湖」と呼ばれる。1950年代に気候乾燥や、人口増による灌漑 用水の使用増加で河川の流れが途絶え、完全に干上がった。半世紀ぶりに水が戻ったのは、敦煌の南方にそびえる祁連 山脈の氷河が急速に解け、河川の流量が増えたためだ。
◆急激な減少進む氷河
祁連山脈は「世界の屋根」と呼ばれるチベット高原の北端に位置し、東西2000キロメートルにわたって標高6000メートル級の山々が連なる。氷河は敦煌や
だが、氷河の減少が今、急激に進む。同山脈を源流とする河川の1つで、敦煌を流れる「党河」の水源近くでは、氷河から流れ出る水が勢いよく山を下っていた。上流部では洪水で岩石が押し流された跡も。別のガイドの王静 (34)は「祁連山脈の氷河は温暖化でどんどん解けて減っている。昔は観光客が近づけるスポットも多かったが、今はほとんどない」と話す。
以前は氷河を観光地として積極的に売り出していた地元当局も、道路整備や自動車の往来が氷河減少を加速するとして、入山を規制するようになった。
◆水不足に警戒、新たな畑を禁止に
敦煌近郊の農家は不安を募らせる。敦煌は農業や牧畜が盛んで、強い日差しの下、甘いブドウやスイカが育つ。ただ、年間降水量は40ミリと東京の約40分の1で、氷河から流れ出る党河の水は欠かせない。
代々続くブドウ農家の史素霞 (65)は「氷河が解けきって水がなくなれば、砂漠に囲まれた敦煌では農業を続けられなくなる」と不安を隠さない。
地元政府も将来的な水不足を警戒。水の消費を抑えるため、新たに畑をつくることを禁止した。隣接する青海省から水路を引くことも検討している。
敦煌から西に約400キロメートルの砂漠には、1600年前に水が枯れ、砂に埋もれた幻の湖ロプノールと、湖畔に栄えた古代都市「楼蘭 」の遺跡がある。地元では今、「敦煌をロプノールにしてはいけない」という危機感が強まっている。史はつぶやく。「氷河の水は命の水。水がなくなる時は敦煌が終わる時だ」(敬称略、中国甘粛省敦煌で、坪井千隼、写真も)
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