個としてつながる 栃木の高齢女性コミュニティーで

2021年12月30日 07時32分
 家族や血縁だけにとらわれず、新たなつながりで老後を前向きに生きる女性たちがいる。平均寿命が世界一ともいわれる日本の女性たちが、自由に自立して生きるために必要なこととは何か。「個」を強く意識して生きる女性たちを栃木県・那須の地に訪ね、そのヒントを探った。 (小林由比)

◆「家」を守る役割 降りた 石井悦子さん(63)

 「二十代から三世代同居してきた家で、義母をケアしつつ老後を送るものだと思っていた」。福島県白河市の石井悦子さん(63)が、その既定路線を離れることを決めたきっかけは、二〇二〇年三月の夫の急逝だった。
 夫の実家は四世代以上前から続く農家。石井さん夫婦は、福祉施設で働きながら三人の子どもを育ててきた。「義父母も子どもの面倒をよく見てくれました」。だが、昨春、肺がんが判明した夫は、入院して約二週間で亡くなった。六十四歳だった。
 夫を亡くしたショックを抱えつつ、介護の仕事に、認知症の義母のケア、自宅の維持。徐々に一人で家を担うことへの負担を感じるようになった。義母の排せつの失敗にイライラし言葉や態度に出したこともある。「介護職なのに、理性が働かなくなるほど追い詰められていました」
 そんな中、仕事を介して交流のあった複合施設「那須まちづくり広場」(栃木県那須町)が頼りになった。学校跡地を活用し、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を中心に、仕事場や交流施設などを備え、多世代が連携し合うコミュニティー構想を掲げる。
 石井さんは、広場の介護施設で働きながら、来冬完成予定のサ高住で暮らそうと決意。手に余る自宅や農地は手放すこととし、義母もグループホームに入ってもらった。
 自分の暮らしを優先することに後ろめたさはあったが、「介護と仕事の日々が続くと考えると、しんどいなあと思った」。夫の親戚の了解も得て、「家」を守る役割を降りた。「快適に暮らすための間取りや家具を考えたりと、今は新しい生活が楽しみ」

◆人に頼める自分に 佐々木敏子さん(69)

 広場から車で七〜八分の場所にあるサ高住「ゆいま〜る那須」。広場の構想に先立ち、女性たちの意見を取り入れてできた住宅で、一人暮らしの女性を中心に六十〜九十代の約七十世帯が暮らす。コンセプトは「おひとりさまの女性が、ほそぼそと、でも地道に就労を続けたあとの老後」だ。
 「まさに私のこと」。そう語る佐々木敏子さん(69)は五年前から暮らし、広場の運営にも携わる。四十代から高齢者住宅の営業職として大阪や名古屋など各地を転勤してきた。
 母をみとり、六十歳になった自分の老後を考え、まず思い浮かべたのは都市部の高齢者住宅。「でも、年金が月十三万円ぐらいの私にはちょっと厳しい」
 経済的な条件に合致した今の暮らし。都会人だった佐々木さんに大きな変化があった。まず畑仕事にハマった。野菜を作って食べ、おすそ分けして喜んでもらうことも。「買い物好きで消費ばかりしてきた以前の私からは想像できない」
 もう一つの変化は「頼める自分になったこと」だ。「働いていた時、責任感から人に頼むことにすごく抵抗があった。でもここではボランティアさんが車に乗せてくれたり、一人暮らしの入居者同士『買い物大丈夫?』と声を掛け合ったり。ほどよい支え合いがあるから、不安はいつのまにか消えた感じです」

◆「老後こそ自立の季節」かなう住まいを 那須まちづくり株式会社代表・近山恵子さん(72)

 全国で高齢者の住まいを企画してきました。老いを迎えて仕事や育児、介護などから放たれた女性が新たな環境を求める時、「子どもに反対される」といった家族の壁に衝突します。
 女性の多くは妻や母、娘という役割を懸命に担ってきました。そうするうちに「自分で決める」ことが難しくなった女性に、「役割から降りていいよ」と話すことが多いです。
 お金や人間関係、不安は誰にもあります。家族で支え合って解決すべきだとの風潮が強いですが、家族でなくとも、ヒトやモノ、カネ、情報を寄せ合えば解決できるのです。
 個人が尊重される住まいを核に、老後の課題を解決できるコミュニティーづくりに挑戦中です。私が師事した女性学研究者の駒尺(こましゃく)喜美さんは「老後こそ自立の季節」との言葉を残しました。役割から放たれ、本音で生きる実践の輪を広げたいのです。
<女性の老後の暮らし> 厚生労働省によると、2020年の日本人女性の平均寿命は87.74歳で過去最高となり、世界保健機関の様式に合わせた国別集計で世界1位に。19年の国民生活基礎調査では、65歳以上の高齢者世帯で単独世帯が49.5%に上り、うち65%は女性が占める。超高齢化を反映し、女性の単独世帯の4割以上が80歳以上だ。

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