屋台を引くエプロン姿の薬剤師「雑談のなかにこそ健康状態を知るヒントがある」 夢は「調剤喫茶」を開くこと

2021年12月31日 06時00分

街角に屋台を置き、健康相談に乗る薬剤師の石丸勝之さん(中央)=いずれも東京都練馬区で(由木直子撮影)

 雑談からこぼれる本音にこそ、その人の健康状態を知る大切な手がかりがあるのではないか。東京都練馬区の薬剤師石丸勝之さん(30)は薬局のカウンター越しの会話ではなかなか聞けない、患者の深い悩みを知ろうと街に飛び出した。「誰より身近な薬剤師」を目指し、屋台を引いてお茶を入れ、健康相談に乗る。(西川正志)

◆お茶を飲みながら気軽に相談

 「処方された薬を使っているけれど、子どものアレルギーが治らないんです」。慌ただしく人が行き交う師走の練馬区内の商店街。女性の話に耳を傾けるエプロン姿の石丸さんがいた。
 石丸さんは手押しの屋台で、漢方茶のティーバッグの販売と試飲提供をしながら、薬や健康についての相談を受け付けていた。
 「それは体がアレルギー物質に順応するまで待つための薬です。成長しても治らないなら、漢方の方が良いかもしれませんね」
 説明を聞いた女性は、少し気持ちが軽くなった様子。「薬剤師って薬局の奥にいて話しかけづらい。お茶を飲みながら、相談できるのはすごくいいですね」

◆誰かに頼られる人になりたい

屋台を引く石丸さん

 石丸さんは足立区生まれ。「誰かに頼られる人になりたい」と思っていた中学生のころ、喫茶店のマスターに憧れた。「客から人生相談を受けているイメージがありましたから」
 高校生になって、ドラッグストアでアルバイトした時、客の相談に親身に応じる薬剤師の姿を見て感心した。「薬剤師も頼られる人なんだ」。憧れの職業が、もう一つ加わった。
 
 東邦大学薬学部に進学。大学時代、友人に「薬剤師が喫茶店マスターとなる『調剤喫茶』を開きたい」と患者との交流の場をつくる夢を語ったが、卒業後、いろいろな課題に直面した。
 高齢者施設に薬剤を供給する都内の薬局などに勤務したが、患者との接点はほとんどなく、頼られている実感がなかった。約2年前、薬局の運営会社が山形県内で開いた店舗に希望して異動したが、しばしば客との間に壁を感じた。
 ある時、待合室から「血糖値の薬が効かない」と客同士の話が聞こえた。事情を尋ねてみると、客は「いつもと変わらない」と素っ気ない。本心ではないと感じ「なぜ相談してくれないんだ」と悔しかった。

◆客同士の会話をメモ、雑談のネタに

 世間話がうまくできるようになろうと、客同士の会話や様子をメモし、雑談のネタにした。「いつもすてきな服ですね」「お隣から野菜、もらったんでしょ」。気軽に会話できるようになると、血圧計の修理を頼まれたり、採れた野菜を分けてもらったりもした。「地域に溶け込んでいった」
 今年4月、都内の薬局に転職したのを機に、夢の実現に踏み出した。クラウドファウンディングで集めた65万円を元手に屋台を購入。12月から、勤務のない週末に街角に立つ。
 資金や場所を確保して、5年後に店舗型の「調剤喫茶」を開くのが目標だ。「患者が悩みを自然と話せるような場所にしたい。そのためのコミュニケーション力を身につけたい」。屋台でお茶を差し出しながら、人生勉強の日々は続く。

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