私ならではの「おめでたい」を 都内で数少ない女性太神楽師が習得した大技と目指す創作

2021年12月31日 06時00分

「吉原雀」を披露する太神楽師の鏡味味千代さん=いずれも東京都足立区千住旭町で(松崎浩一撮影)

 正月などおめでたいシーンを彩る太神楽だいかぐら。東京都内で数人しかいないという女性太神楽師の一人、鏡味味千代かがみみちよさん(45)は女性として初めて、ある大技を習得した。男性中心の世界で、女性であることを生かした芸の創作にも取り組んでいる。「太神楽の世界を目指す女性の憧れになりたい」と話す。(西川正志)

太神楽 もともとは伊勢神宮や熱田神宮の神職が各地で厄よけの獅子舞を舞う神事だったが、地方を回るうちに曲芸が加わったとされる。歴史は500年以上ともいわれ、現在は落語などが行われる寄席で披露されることが多い。傘の上で升や茶わんを回したり、いくつもの皿を投げたりする曲芸もある

◆食事ができないくらい歯を痛めて…

 ふわっと投げ上げたソフトボール大のまりを、口にくわえた長さ約25センチの棒状のばちの軸にぴたりと載せる。ばちの先端に載せても、ばちの本数を増やしても、まるで吸い付いたように、まりは落ちない。
 「最高難度」(太神楽曲芸協会)の技「一つまりのくわえばち」だ。「まりとばち、丸い物同士でミリ単位のコントロールが求められる」と味千代さんは言う。

大技「一つ鞠のくわえ撥」を披露する

 大学を卒業し、PR会社に勤めていた26歳のとき、初めて行った寄席で見た太神楽に魅了された。3年後、国立劇場の太神楽師養成事業の門をたたいた。2011年に30代半ばでデビュー。学生時代の留学で身に付けた英語やフランス語を生かし、海外公演も多数経験した。
 「一つ鞠のくわえ撥」に挑戦したのは16年。難度の高さと「ばちをくわえた姿が女性らしくない」という理由から女性の習得者は誰もいなかったが、味千代さんは「究めたい」と師匠に頼み込んだ。男性ばかりの太神楽の世界。女性というだけで物珍しがられることに違和感があり「太神楽師としての力量を見てほしい」という思いもあった。
 ばちに載せたまりを落とさぬよう維持するだけで2年かかった。技を磨き初めて客に披露した昨年7月の舞台は、緊張から失敗の連続だった。「お客さんも最後はあきれていた」
 それからは毎日猛稽古で体に技を染み込ませた。コロナ禍で舞台がなくなり空いた時間もつぎ込んだ。ばちをくわえ続けたせいで、食事が取れないくらい歯が痛んだ。今年3月の舞台でようやく成功。目の肥えた常連の「おお」と驚く声に「うれしかった」と笑う。

◆「女性の華やかさは武器になる」

長唄に合わせて、扇を放り上げてキャッチする芸の創作にも励む

 「女性に合う芸を」と創作にも力を入れる。長唄に合わせて踊りながら、放り上げた扇子を次々とキャッチする曲芸を考案。来年4月の披露を目指す。
 まりが上がれば運気上昇、扇子は末広がり…。すべての技におめでたい意味が込められた太神楽は「人を幸せにできる芸」と思う。
 まだ、珍しさが先行しがちな女性太神楽師だが「女性の華やかさは武器になる。女性だからこそ、太神楽の持つ『おめでたい』をもっと伝えられるはず」と精進を続ける。

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