「本能を忘れた」コウノトリ ごみの山に群れる冬【動画あり】

2022年1月5日 06時00分
<連載「ワン・プラネット 深まる気候危機」>
 カタカタカタ…。鼻を突くにおいが立ち込める泥道の奥で、不思議な音がこだまする。視界が開けると、ごみの山の上でおびただしい数のコウノトリがたたずんでいた。鳴く代わりにくちばしをたたいて意思疎通を図る独特の音に引き寄せられた鳥が飛来、次々とごみ山の上に降り立った。

昨年12月、フランス北東部ストラスブール郊外で、廃棄物処分場に集まるコウノトリ

 昨年12月中旬、フランス北東部ストラスブール郊外の廃棄物最終処分場。「こんな環境だけど、彼らを見ると気持ちが安らぐわ」。施設責任者のクラウディーヌ・ペレイラが笑った。

◆欧州で増える越冬、寒冷地でも

 渡り鳥のコウノトリは寒くなると南へ飛び、アフリカ中部で越冬するのが通例だった。ところが、近年はスペインやポルトガル、フランス南部の温暖な地域にとどまり、さらには寒冷地のストラスブールなどアルザス地方でも越冬する個体が増えている。
 冬季にコウノトリが集まる地域の共通点は、ごみに混じった食品や、それを求めて集まる虫や小動物などのエサが豊富にある廃棄物処分場の存在だ。「昔のように積雪や霜が多ければ、処分場の土が凍り付くのでこんな光景は見られなかったはずだ」。処分場で観察を続ける野鳥保護ボランティアのクリスチャン・ドロノー(65)は確信する。
 フランス気象局によると、ストラスブールの平均気温は過去30年で1.5度上昇。数十年前はクリスマスの季節には軒先に雪だるまが並んだが、近年は降雪自体が減った。「冬にコウノトリを見るなんて想像もできなかった」とドロノー。この日は処分場で225羽の個体を確認した。

◆保護していないのに1400組超

 アルザス地方のコウノトリは1970年代、つがいの数が9組まで減少した。絶滅を恐れた愛鳥家らの保護活動のおかげで2000年には250組に回復。以降は右肩上がりに増え、10年ほど前からは特別な保護をしていないにもかかわらず、昨年の確認数は1400組を超えた。

 その要因は、冬にとどまる鳥が増えたことにある。個体数を調査している野鳥保護団体「LPO」のアルザス地区会長イブ・ミュラー(68)は「渡り鳥は移動中に死ぬリスクが最も高い。冬季もエサを確保できるため、移動しなくなったことが致死率の低下につながった」と分析する。これまでの越冬先のアフリカは気候変動による乾燥が激しく、エサの確保が難しくなっていることも欧州での越冬を後押ししているという。
 個体数の増加によるふん害や騒音被害も報告されているが、コウノトリを守ってきたアルザスの人たちには好意的にとらえる意見が多い。くちばしを鳴らすしぐさを双眼鏡で見守りながら、ドロノーが言った。「絶滅を心配しなくてすむのは、温暖化のおかげかもしれない」

◆処分場内で羽が傷つく個体も

 アフリカ大陸に渡らず欧州にとどまって越冬するコウノトリは、廃棄物最終処分場を安住の地としてきた。欧州では規制強化の動きがあり、格好のエサ場を失うことで個体数が再び減少に転じる可能性もある。
 「年々暖かくなる冬の気温とエサが簡単に手に入る環境が、コウノトリに南下するという本能を忘れさせたのだろう」。スイスの保護団体「SOSコウノトリ」代表のホルガー・シュルツ(67)はこう分析する。

コウノトリが飛び交うストラスブール郊外の廃棄物処分場

 廃棄物処分場をエサ場とする現象に気付いたのは20年前。国内では毎年1割ずつ個体数が増え、2020年冬の調査では699組のつがいを確認したが、営巣地は処分場がある地域に集中しているという。
 同団体の観察では、処分場内でビニールの袋やひもに絡まって身動きがとれなくなったり、羽が傷ついた個体も目撃された。処分場に出入りする個体に共通する細菌性の感染症の存在を指摘する研究者もいるが、危険性よりもエサを確保できる利点が上回るため、各国の保護団体も処分場の悪影響には目をつぶってきた側面があるようだ。

◆EUが廃棄物の規制強化、個体数減少も

 だが、コウノトリがごみにまみれる光景は減っていくかもしれない。
 欧州連合(EU)は18年に改正した廃棄物規制指令で、30年までにリサイクル可能なごみの受け入れ中止を求めるなど最終処分場の規制を強化。スペインやポルトガルでは基準に沿わない処分場が相次いで撤廃され、周辺地域でコウノトリの個体数が減少した例が報告されている。

◆最も望ましいのは…「冬は冬らしく」

 SOSコウノトリは、将来的にEU内の処分場がなくなった場合、北アフリカなど域外の処分場を求めて移住するか、欧州にとどまるもののエサ不足で個体数が激減するなど複数のシナリオを想定。最も望ましい選択肢は「コウノトリが渡り鳥としての本来の姿を取り戻し、冬季には南下して自然のエサを食べて暮らすことだ」としている。
 「個体数の増加にはつながっているが、野生動物がエサの確保を人工物に頼る姿は望ましくない」と話すシュルツは、「南下する本能を思い出すためにも、冬が冬らしく寒くあってほしい」と願っている。(敬称略、フランス北東部ストラスブールで、谷悠己)
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