自然に触れ、野菜を収穫する「旅するリハビリ」 過労でうつ状態も経験した医師が農家民宿を経営

2022年1月5日 12時00分

農家民宿「ととのや」。専門医の指導で、自然の中、リハビリできる=いずれも金沢市福畠町で

 過労でうつ状態になって会社を退社した後、医学部に入り直し、金沢市の山あいで農家民宿を始めた医師がいる。自然の中、畑仕事をすることで、本質的な癒やしが得られるとの考えからだ。目指すは「旅するリハビリ」。患者も運営に関わる全国でも珍しい試みに東京の大手旅行会社も注目し、視察に訪れている。(城島建治、泉竜太郎)

 農家民宿 農業や漁業などを営む人が経営する宿泊施設。地域で生産した農林水産物を食材にした料理を味わってもらうほか、農業や漁業などを体験してもらう。都会に住む人などに利用してもらうことで、農山漁村の活性化につなげるのが目的。2005年に農山漁村余暇法が改正され、基準を満たせば、登録できるようになった。

 この医師は金沢医科大リハビリテーション医学科(石川県内灘町)に勤務する田辺望さん(37)=富山市新根塚町。
 田辺さんは滋賀県米原市出身。早稲田大スポーツ科学部卒業後、コンサルタント会社(大阪市)に就職したが、過労でうつ状態になり、8カ月で退社した。土砂降りの中、会社の外で、取引先の社長に土下座したことを覚えている。「正常な判断ができないほど追い詰められていた」
 退社後、「人のために何かしたい」と医師を目指すことに。猛勉強した結果、富山大医学部に合格した。25歳だった。
 勤務する金沢医科大では病気や事故で手や足を十分、動かせなくなった人の機能回復に努めるが、リハビリ期間は半年が目安。病院だけでリハビリをする仕組みに限界を感じた。

農家民宿を経営する田辺望医師。「リハビリのために気軽に立ち寄れる宿にしたい」と語る

 4年前、患者と一緒に奥能登地方の自然に触れるイベントを企画。自然を楽しむことが、そのままリハビリになると考えた。
 その患者の紹介で3年前、金沢市福畠町の古い民家を訪ねると「これだ」と直感した。
 金沢駅から車で20分ほどの山あいの集落は、美しい自然に囲まれている。民家近くにはニワトリが飼育され、約5000平方メートルの野菜畑が広がる。畑に入ると土に足をとられ、簡単に前に進めない。でも、土の中を歩いたり、野菜を収穫してみんなで料理することが、楽しみながらリハビリできる方法だと感じた。
 患者と相談して農家民宿としてオープンさせることを決意。2019年に民宿を経営する一般社団法人を地元農家、料理人、患者ら8人で設立し、21年10月に「ととのや」として営業を始めた。
 築40年の古民家は木造2階建てで、約350平方メートル。客室は1階に2部屋用意し、計7人が泊まれる。宿泊者と一緒に野菜を収穫し、おしゃべりしながら料理して食べている。これまでに金沢市内を中心に10人が宿泊した。宿泊代は現在、素泊まり5000円、食事付きで8000円。
 設立に参画した患者(51)は「自然の中でリハビリできるのはすごく楽しい。他の人にも体験してほしい」と期待する。
 病院のようなリハビリをするわけではないが、山道を歩いたり、畑で野菜を収穫するなどの活動がリハビリに役立つとして、体験できるメニューを充実させる。

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