アパートに亀裂「大地が解けたせいだ」30万都市で傾く家 永久凍土との暮らしに異変【動画あり】

2022年1月6日 06時00分
<連載「ワン・プラネット 深まる気候危機」>
 アパートの部屋に亀裂が入り始めて2年がたつ。初めは天井から塗装がはがれ落ちた。次に壁が割れた。天井と壁の境は裂け、長さ5メートルの溝ができている。
 「大地が解けたせいだ。引っ越すしかない」

昨年11月下旬、ロシア北東部サハ共和国ヤクーツクで、壁や天井に亀裂が走る部屋に住むフョードル・マルコフさん

 ロシア北東部のシベリア大地に広がるサハ共和国の中核都市ヤクーツク。マンモスの牙やトナカイの角などに彫刻を施す芸術家、フョードル・マルコフ(74)は頭を抱えた。

◆20年後、70%住めなくなる恐れ

 ヤクーツクでは数十メートルの厚さがある地下の永久凍土にくいを打ち込み、それを支えに十数階建てのビルが立ち並ぶ。だが、人口約30万の街は今や「氷上の楼閣」だ。温暖化で凍土が緩んで地盤が不安定になり、家が傾き始めている。
 マルコフが住むアパートは築60年のレンガ造りだが、新築の鉄筋コンクリート造りのビルでも壁にヒビが走る。地元の建築専門家によると、早ければ20年後、街に立ち並ぶビルや住居の70%は人が住めなくなるという。

◆「天然の冷蔵庫」は「泥の穴」に

 サハ共和国で暮らすサハ人はもともとシャーマニズムなどの自然を崇拝する遊牧・狩猟の少数民族で、凍土は生活に欠かせないものだ。人々は庭先の永久凍土に穴を掘り、肉や魚、バターを保存してきた。
 しかし、ヤクーツクでは年間の平均気温がこの30年で3度も上昇。「天然の冷凍庫」はただの「泥の穴」になり、電化製品の冷蔵庫を買い求める人もいる。
 「温暖化は自然のしっぺ返し」とマルコフは語る。各地で木々が切り倒され、中国や日本に輸出される光景を目の当たりにするたび「大地はもう元には戻らない。人類は自然を破壊しすぎた」と後悔する。

◆「温暖化が生んだ『難民』」

 施設の地下に、数千~数万年前に形成された永久凍土の人工洞窟を持つ「メルニコフ永久凍土研究所」。洞窟内部の温度は年間を通じて零下8~9度に保たれ、研究者らが永久凍土の調査を続けている。
 「先祖代々の土地を捨てざるを得ない人も増えている。彼らは地球温暖化が生んだ『難民』だ」

建物のゆがみや崩壊が問題となっているロシア北東部サハ共和国ヤクーツク


 研究所の博士、アレクサンドル・フョードロフは凍土が解け、こぶ状に盛り上がった土地の写真を取り出した。かつては平坦へいたんな空港の滑走路や農地だった。
 地中の永久凍土が解けると、夏場は凍らない地表が盛り上がったり、沈んだりする。起伏がある畑をトラクターで耕すのは難しい。サハ共和国では1990年、大阪府のほぼ半分の面積に当たる10万ヘクタールの畑で小麦やジャガイモを育てていた。その畑は今、60%減って4万ヘクタールになっている。(敬称略、サハ共和国ヤクーツクで、小柳悠志)
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 地球規模の気候変動は、生態系や人々の生活を一変させ、民主主義をも脅かしています。本紙は今後も随時「ワン・プラネット」を掲載する予定です。

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