永久凍土緩み「マンモスラッシュ」 中国や日本引き合いの陰で未知の病や温暖化加速の恐れ
2022年1月6日 06時00分
<連載「ワン・プラネット 深まる気候危機」>
永久凍土の融解は建物をひずませたり、「環境難民」を生むだけではない。サハ共和国では、緩くなった地盤からマンモスの牙を掘り出す住民が続出し、空前の「マンモスラッシュ」に沸く。一方、採掘に伴って未知の病原体がまん延する懸念も浮上している。
◆「土がブカブカする」
中核都市ヤクーツクから郊外に20キロメートルほど向かうと、白銀の平原のような光景が眼前に広がった。
「これがロシアの河川。スケールが大きいだろう」
ロシア北東大学技術校の校長テレンティ・コルニロフ(61)が誇らしげに語った。いてついた世界有数の大河レナ川だ。
現地を訪れた昨年11月下旬は氷点下30度だった。ただ、昨夏は暖冬で凍土が緩み、「歩くと足元の土がブカブカする」(コルニロフ)状態になっていた。
◆マンモスの牙、規制なく
サハ共和国では近年、軟らかくなった土壌に目を付け、マンモスの牙を掘り出す住民が増えている。象牙と違って国際的な取引規制がなく、漢方薬や印鑑の原料として中国や日本からの引き合いが強いためだ。
サハ共和国には、地球上に存在したマンモスの9割が眠るとされる。牙の産出量は年間100トンを超え、金の採掘ブーム「ゴールドラッシュ」になぞらえ、マンモスラッシュと呼ばれる。
◆トナカイ通じて感染、70人入院
一方で懸念されるのが、マンモスの採掘に伴う未知の病原体との出合いや、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出だ。
凍土の中の動物にはウイルスや細菌が潜む。凍土の多くは人類が出現する以前に形成され、未知の病原体も多いとされる。
ロシア北極圏のヤマロ・ネネツ自治管区では2016年、永久凍土が解け、炭疽 菌に汚染された動物の死骸が土中から露出。死骸を口にしたトナカイを住民が食べたため、炭疽菌の感染が村に広がり、住民70人が入院した。
ヤクーツク・マンモス博物館の学芸員マクシム・チェプラソフ(40)は「凍土に眠る動物に触れるのは安全ではない」と警告する。
◆眠る炭素1.4兆トン、温室効果ガスの恐れ
また、永久凍土には、太古の植物や動物の死骸が有機物となって生成された1.4兆トン以上の炭素が閉じ込められている。凍土が解ければ、有機物が分解され、温室効果ガスのメタンや二酸化炭素(CO2)として放出される。ロシアでは近年、地中のメタン爆発でできたとみられる巨大な穴が各地で確認されている。(敬称略、小柳悠志)
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