<となりのジブリ>(上)作家人生照らす名せりふ 作家・朝井リョウ

2022年1月6日 07時31分
 三十年以上にわたり、創造的なアニメーションを世に送り出してきたスタジオジブリ。DVDやテレビ放映、そして映画館で、ジブリ作品はいつも私たちの「となり」にいた。今秋には愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内に「ジブリパーク」が誕生する。幼い頃からジブリの世界に親しみ、今は創作者として活躍する著名人に、思い出に残るせりふや場面とともにその魅力を語ってもらった。
 「小説家を目指す主人公を描いた物語が珍しく、親近感を覚えた」
 作家朝井リョウ(32)が思い入れのある作品に挙げたのは、小説家を夢見ていた小学生の頃にテレビで見た「耳をすませば」。小説家の夢を抱いた雫(しずく)に、骨董(こっとう)品店「地球屋」の主人・西司朗がかけた言葉が心に深く刻まれている。彼は、物語を書くことをこう例える。

「耳をすませば」と「風立ちぬ」への思いを語る朝井リョウ(新潮社提供)

「自分の中に原石を見つけて、時間をかけて磨くことなんだよ。手間のかかる仕事だ」
 小説の執筆には孤独と不安、迷いがつきまとう。作品が形になるまで、一年以上かかることも珍しくない。「原石を磨いて絶対によいものになるとは限らないが、磨かなければ何にもならない」と朝井。
 作品全体も「青春のポストカードみたいな瞬間ばっかりで、美しいものを眺める感じで単純に好きです。長く続く階段を駆け降りる時の感覚とか、誰の心にもあるんじゃないでしょうか」と話す。
 だが、青春のきらきらした光や甘酸っぱさだけではない。ふっと本のしおりのように挟みこまれる現実がある。夢へ向かう雫に、父は理解を示しつつもくぎを刺す。
「自分の信じるとおりやってごらん。でもな、人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。なにが起きても誰のせいにもできないからね」
 朝井は「執筆がしんどくても、自分で選んだ道だしな、と落ち着かせてくれる。シンプルだけど、小説家でなくとも当てはまる言葉じゃないでしょうか」
 もう一つ、印象深いせりふがある作品に挙げたのが「風立ちぬ」。朝井が作家になる夢をかなえ、直木賞を受賞した二〇一三年に劇場公開された。
 夢に現れたイタリア人の飛行機設計家カプローニに憧れて、自身も設計家の道を歩んだ堀越二郎。成長した二郎の夢の中で、カプローニは意味深に告げる。
「創造的人生の持ち時間は十年だ。芸術家も設計家も同じだ。君の十年を力を尽くして生きなさい」
 朝井は「初めて聞いた二十四歳の自分は、正直あまりぴんとこなかった」と振り返り、「最近見返したら、最初から最後まで泣きながら見てしまった」と明かす。
 自身の作家人生をかえりみて、「物語を書く意味を考えず、ただ書いていた若い頃のエンジンは、もう自分に搭載されないだろうという気持ちがある。まだまだ若い年齢ですけれど」と苦笑する。<持ち時間>の意味が今になって腑(ふ)に落ちた。
 一方で、デビューから十年を超えた現在だから、気付くことができた作品の魅力もある。「堀越二郎の個人的な感情に拠(よ)らず、時代や国の大きな流れを描いている。ものすごく難しい描き方で、せりふも全体の構造も今の私に迫るものがあった」
 飛行機の設計という二郎の夢は、その意思とは離れて、戦争と無関係でいられない。まして戦争へ突き進んだ先に何が待っているのか、登場人物たちは知らないのだ。「大きな流れの中で、何が正しいのか分からない状況は現代にもあてはまる。この二年のコロナ禍でもそういう気持ちを感じていた」
 「耳をすませば」と「風立ちぬ」はどちらも、夢と現実を抱えて生きる主人公を描く物語だ。朝井の印象に残るせりふは、主人公を導き、支える存在の言葉が目立つ。
 一五年から毎年、岐阜市立中央図書館が主催する中高生向け短編小説コンテストの選考を務める朝井。昨年も力作を寄せてくれた県内外の入賞者と言葉を直接交わした。
 「自分と数十分話すために熊本から来てくれた方もいて、正直申し訳ないくらいだが、親や先生以外の大人と接するのは子どもにとって大事な経験と思う。もしも自分が中高生の時、小説を読んで褒めてくれた大人がいたら、一生忘れられないんじゃないか」
 きっと朝井も、誰かの「地球屋の主人」になっているに違いない。穏やかな声を聞きながら、そう感じた。 (敬称略、谷口大河)

◆耳をすませば

「耳をすませば」で、地球屋で原石の輝きに目を凝らす雫 ©1995 柊あおい/集英社・Studio Ghibli・NH

 柊(ひいらぎ)あおいの少女漫画が原作。本が好きな中学3年の月島雫は、バイオリン職人を目指す同級生天沢聖司と出会い、自らも物語を書き始める。恋と夢、幻想と現実をみずみずしく描いた。近藤喜文監督。

◆風立ちぬ

「風立ちぬ」より、夢の中で並び立つ堀越二郎(右)とカプローニ ©2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

 実在した航空技術者堀越二郎の生涯と、作家堀辰雄の小説を基にしたフィクション。太平洋戦争へ向かう日本で、二郎は少年時代に夢で会ったイタリア人航空技術者カプローニの言葉に導かれるように技術者を目指す。宮崎駿監督。

◆ジブリパーク

建設が進む「青春の丘エリア」。左が装いを一新するエレベーター棟、右が「地球屋」の建物(昨年11月撮影)=愛知県長久手市で、本社ヘリ「あさづる」から

 愛・地球博記念公園内で整備が進むジブリパーク。計画は大きく二期に分かれ、今秋に第一次開業を迎える。
 第一次開業となるのは、「耳をすませば」に登場する骨董品店「地球屋」を模した建物などが入園者を迎える「青春の丘エリア」(約〇・八ヘクタール)▽二〇〇五年の愛・地球博(愛知万博)で建設された「サツキとメイの家」を中心に、「となりのトトロ」の舞台となった昭和の田園風景が広がる「どんどこ森エリア」(約一・八ヘクタール)▽各種展示室や子どもが自由に遊べる「トトロの部屋」や収蔵庫などを備える「ジブリの大倉庫エリア」(約〇・八ヘクタール)。
 さらに一年後となる第二次開業は「もののけの里エリア」(約〇・八ヘクタール)、「魔女の谷エリア」(約二・九ヘクタール)があり、工事に着手している。
      ◇
 (下)は16日に掲載予定です。

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