<奥多摩新聞>来い! サクラマス 峰谷川を聖地に

2022年1月7日 07時17分

峰谷川渓流釣場でサクラマスプロジェクトを語る菅原和利さん=奥多摩町で

 奥多摩湖に流れ込む峰谷(みねだに)川を「サクラマス釣りの聖地」にするプロジェクトが今年、スタートする。仕掛け人は奥多摩町の会社員菅原和利さん(34)。「サクラマスが釣れるようになれば、東京の釣り人は『一度は行きたい』と思うはず。地域活性化の起爆剤にしたい」と前を見据える。
 キラキラと輝く白銀の魚体が釣り人を魅了するサクラマス。「渓流の女王」ヤマメと同じ種類だが、ヤマメが川で一生を過ごすのに対し、サクラマスは海や湖に下り、生まれた川に遡上(そじょう)して産卵する。ヤマメは体長三〇センチ程度だが、海や湖に下ったサクラマスは最大で七〇センチにもなる。釣るのは難しく、何年も通い詰めて最初の一匹を手にする人も。「聖地」と呼ばれる福井県の九頭竜川は釣りが解禁される二〜五月に約一万五千人も訪れる。
 菅原さんは仕事で林業再生に取り組む傍ら、峰谷川や日原(にっぱら)川など町内の渓流で釣りを楽しむ。昨年十一月、釣りアプリ会社「アングラーズ」の公認釣り人「アングラーズマイスター」に選ばれた。マイスターに支給される年間百二十万円の活動支援金を、町おこしに活用しようと考えた。
 広くは知られていないが、峰谷川や奥多摩湖では以前からサクラマスが確認されていた。より多く遡上するように、峰谷川へ稚魚を放流することがプロジェクトの骨格だ。都農林水産振興財団が運営する奥多摩さかな養殖センターから稚魚千五百匹を購入し、二月末ごろと四月ごろの二回に分けて放流する。一部は奥多摩湖に下って成長し、早ければ秋に川を上るはずだ。「今年はまず一匹でも遡上を確認できればいい。毎年放流し『サクラマスの里』としてPRしていく」
 同時に、峰谷川渓流釣場を管理する小河内(おごうち)漁協、小河内振興財団と連携し、サクラマス釣りの環境整備にも取り組む。一部の区間は釣れた魚を川に戻すキャッチアンドリリース専用にすることを考えている。「魚がいる渓流を、次世代に残すことも大事にしたい」

町内の釣り人が奥多摩湖で釣ったサクラマス(菅原さん提供)

 実は菅原さん自身は町内でサクラマスを見たことがない。「あの人が峰谷川で見たらしい」と都市伝説のような話を聞く程度だった。不安もよぎったが、多摩地域の魚類研究者が「奥多摩湖で釣ったことがある。きっとできるよ」と背中を押してくれた。町内の人も奥多摩湖で釣ったサクラマスの写真を見せてくれ、気持ちに弾みがついた。
 サクラマスなどサケ科の魚が海や湖に下るのは、生まれた川の環境が厳しかったり、縄張りを持てなかったりして、十分な餌にありつけないためとの分析もあるという。菅原さんはサクラマスにロマンも見いだしている。「いわば『負け組』の魚が、広い世界に出て、ずっと大きくなって帰ってくるんです。物語としても、面白いでしょう」

◆奥多摩町

 東京の北西に位置し、埼玉、山梨両県と接する。人口は4908人(昨年12月1日現在)。町では過疎対策のため、住宅購入への補助などさまざまな定住支援策を展開している。都内最高峰の雲取山や日原鍾乳洞があり、豊かな自然を生かした観光業が盛ん。

★奥多摩湖(小河内ダム)は都の貴重な水源で、水の供給量は都全体の約2割に上る。湖沿いの道はツーリングコースとしても人気=写真。
★町の面積は225.53平方キロメートル。都の面積の1割以上にあたり、都内最大の自治体だ。9割以上を山林が占める。
★清流が育むワサビが特産品。江戸時代には将軍家に献上したと伝えられる。町のイメージキャラは「わさぴー」=写真、町提供。

◆編集後記

 「釣りは(幼児期から木に親しむ)木育(もくいく)にもつながる」。菅原さんは、こう話していた。川や海の環境を守るには、水源の山に豊かな森があることが重要。森と絡めた釣りイベントも考案中という。
 本業で木育に取り組む菅原さん。仕事と趣味が混じり合うプロジェクトの今後の展開を楽しそうに語ってくれた。過疎が進む奥多摩だが、こうして生き生きと暮らす人がいる。未来は暗くないと感じた。
10日は上池袋(豊島区)に行きます!
文と写真・林朋実
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。

関連キーワード


おすすめ情報

TOKYO発の新着

記事一覧