1時間で焼け落ちた町...轟音立てた火災、水をかけられなかった消防団員のトラウマ

2022年1月9日 06時00分
<連載「ワン・プラネット 深まる気候危機」>
 遠い山あいで発生した火災は風に乗って急に向きを変え、「列車が走り去るような」轟音を立てながら町に襲いかかった。「これはまずい」。消防団員のトラビス・ロジャース(44)は焦燥感に駆られた。だが、消防設備は燃え落ちてホースから水は出ず、呆然と見ていることしかできない。

米西部カリフォルニア州グリーンビルで昨年11月、山林から見た焼けた街の跡地

◆焼失面積、滋賀県に匹敵

 米西部カリフォルニア州にある人口1000人ほどの小さな町、グリーンビルが焼け落ちるまで、わずか1時間ほどだった。
 昨年7月13日、町から50キロ南西の山中で起きた「ディクシー火災」。炎は乾燥した風にあおられて広がり、3カ月以上も燃え続けた。死者は1人だったものの、焼失面積は滋賀県に匹敵する約4000平方キロメートルに及び、同州では過去2番目の大火災になった。

◆静かな生活暗転、手放せなくなった酒

 トラビスは山での静かな生活に憧れ、火災の2年前にグリーンビルの借家に移り住んだばかり。妻のクリスティーナ(40)は「美しい町だったのに、真ん中に爆弾を落とされたみたい」と涙をこぼす。
 今は隣町のクインシーで子ども2人とトレーラーハウスで避難生活を続ける。トラビスは心的外傷(トラウマ)を負い、酒が手放せなくなった。「毎晩、悪夢にうなされ、冷や汗をかいて目が覚めるんだ」。週に1度の精神科のカウンセリングが欠かせない。

◆「何かが確実に変わっている」

米西部カリフォルニア州グリーンビルで昨年11月、経営していた薬局の焼け跡で大火災を振り返るケビン・ゴスさん

 「ここが私の薬局だったのに…」
 ケビン・ゴス(51)は、焼けた一角を指さした。1860年ごろに建てられ、これまで何度も火災の難を逃れてきた家屋は無残な姿に変わり果てていた。隣接する親類の宿泊施設も燃えてしまった。
 薬局内に保管していた医薬品なども全て失ったが、損失額を証明するすべがなく、「損害保険で薬局を建て直すことはできない」と肩を落とす。
 町全体を焼き尽くす大火災は初めてだった。干ばつなのか、気温なのか、風なのかー。「何かが確実に変わっている」とケビン。

◆空気が乾燥「気候変動が拍車」

 カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の准教授パーク・ウイリアムズによると、1972年から2018年にかけてカリフォルニア州の山林火災の焼失面積は5倍に増え、今も拡大傾向が続いている。
 山林の管理が行き届かず、燃えやすい下草が増えたのも一因とみられているが、パークは「2000年代に入ってからの焼失面積の急増は空気の乾燥度合いと一致する。気候変動が拍車をかけているのは間違いない」と警鐘を鳴らした。(敬称略、カリフォルニア州グリーンビルで、吉田通夫)
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 地球規模の気候変動は、生態系や人々の生活を一変させ、民主主義をも脅かしています。本紙は今後も随時「ワン・プラネット」を掲載する予定です。

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