詩作と人生~日和聡子の詩の風景

2022年1月9日 18時00分
 浦歌無子うらかなこ著『光る背骨』(七月堂)は、17世紀から20世紀にかけて東西に実在した5人の女性たちをテーマとした作品25編を収録する詩集。取り上げられるのは、ドイツの画家で生物学者のマリア・シビラ・メーリアン、「毒婦」として伝説化された高橋お伝、メキシコの画家フリーダ・カーロ、イギリスの化石発掘家で古生物学者のメアリー・アニング、女性解放運動家でアナキストの伊藤野枝。こうした言葉で簡単に言い表してしまうのがはばかられるような、生きた時代や境遇の異なる各人の生涯と人物像をめぐり、著者は彼女たち本人や周辺の存在など多様な視点や語り口を借りて、多角的に見つめ、想像やイメージを働かせて詩をつづってゆく。
 本書はそれぞれの人物ごとに数編の詩で構成され、一種の評伝的な側面もあると言えるが、巻末に多くの参考文献が記されているように、各人の作品や先行研究等を通じて著者が感受し着想したものを、詩のかたちで新たに表し語り直そうと試みたものとも思える。
 集中の一編から採られた書名は、本書全体を貫き象徴するものでもある。身体や物事の中軸、精神的支柱としてのバックボーン、すなわち「背骨」を感じさせる気骨ある女性たちを柱に、「骨」を含む心身と生命のありようが、重要なテーマ、モチーフとしてさまざまなかたちで繰り返し描かれる。主題に絡めて作者自身の詩作や人生観にまつわる意識や心情が反映されていると思われる作品により魅力を感じた。〈ハンマーをひとふり/こんどはなにが現れるのか/触れるかけらには/どんな物語が隠れているのか〉(「泥水が沁みてゆく真っ白な紙」)

『光る背骨』(左)と『十三人の詩徒』

 神泉しんせん薫著『十三人の詩徒』(七月堂)は、与謝野晶子、田村隆一、永瀬清子、吉岡実、多田智満子など、13人の詩人とその作品をめぐるエッセイから成る評論集。後記には、〈十三人の詩人たちの詩と人生は、私自身の詩を書き続ける日々を支え続けてくれました。〉とあり、著者にとって大切な存在であることが示される。全編にわたり、対象について真摯しんしに語る文章は、硬質で透明感があり、情熱と冷静さの入りまじった独特の綾と流麗さを持つ文体で、それ自体に詩とも通じる魅力がある。八木重吉の章の終わりに、彼の詩「雨」を受けて記される著者の言葉が心に残る。〈私自身も、今日明日の、日々の呼吸を怠らぬよう、そっと働いていよう。〉
 この言葉を思い返しつつ、新しい年もさまざまな詩や詩人たちとの出会いを楽しみにしたい。(ひわ・さとこ=詩人)
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 東京新聞文化面では月に1回、詩人日和聡子さんによる詩の月評「日和聡子の詩の風景」を連載中です。新年の1回目をTOKYO Webで公開します。日和さんが案内してくれる豊かな言葉の世界を味わってみませんか。次回掲載予定の2月5日(一部地域は同6日)以降は紙面でお楽しみください。
※掲載は、原則毎月第1土曜の夕刊文化面(一部地域は翌日曜の朝刊文化面)

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