五輪とは、平等とは、共生とは…東京大会を負の遺産にしないために立ち止まって 柔道元世界女王でJOC元理事・山口香さん

2022年1月8日 06時00分

JOC理事の山口香さん=東京都文京区で(2018年6月撮影)

<連載・スポーツの針路~東京大会の先に④>
 〈コロナ禍の中での自国開催は「五輪の意義」「五輪とは」を考える契機になった〉
 私を含めて、国民の多くが「オリパラって何だろう、必要なのかな」と立ち止まって考える機会になったと思います。スポーツの価値はみんなが認めている。でも、五輪はワールドカップや他の競技会と違って特別なんだよと言って、その特別が何なのか。単なる特権階級の特別なのかと疑問を抱いてしまう。
 話を分けると、選手育成では自国開催のモチベーションや支援があり、強化につながりました。ただ、五輪は強化のためだけにあるのではなく、意義、価値といったものが五輪で成し遂げられたのか。例えば、大会ビジョンの多様性と調和。「オリパラをしたことで、日本はそういう社会になってきたよね」という空気を感じるか。オリパラが通り過ぎた後も注視するセンサーを持ち続けることが大切です。
 〈国際オリンピック委員会(IOC)は男女平等を促進する中、大会前には組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言があった〉
 ジェンダーのことは皆さん気をつけていて、これを言っちゃだめ、たたかれるぞと表に出づらい。ただ、悪気はなくても「俺はごみを捨ててやっている」「女はこういう仕事、助けてやっている」とか、実は社会の中でたくさんあります。根本的な問題が浮き彫りになったのは、ある意味よかったと思いますね。
 男女の選手数や種目数に関して、IOCは努力しているけど、今はまだ「男女の数を一緒にする段階」だと思いたい。そもそも男子が昔からやっていた競技の中に「女子を入れてやる」という発想ですよね。それは押しつけで、男子と同じ数にする、イコール平等というのは少し違うなと思っています。
 男女では体力、体格、感性、好みも違う。差別ではなく区別して考えることが大切です。サッカーやラグビーを面白く見せるなら、例えば女子は少し狭い競技場でやるという議論があってもいいですよね。次の段階に入ったら、女子にとって何が心地いいか、本当にやりたい競技は何か。数合わせの平等から、その先に進むことが大事です。
 〈盛り上がったパラリンピック。真の共生とは何か。何が必要かを考える〉
 なぜオリパラは別開催なのか。テニスや陸上など同じ試合場でできる競技もある。一緒にやることが共生じゃないの、やれることはやろうよ。これは私の意見ですけどね。
 今回、そういう深い意見を交わす機会を提供できましたか? パラって、すごいよね、で終わっていませんか。オリパラは多様性、ジェンダー、平和など、そこに気づきを与えて、意識や行動の変容を起こしていくことで社会課題に貢献できるわけです。それをやってこそ、オリパラは「ただの競技大会じゃないよね」と言えると思うんです。
 みんな、大会がゴールと考えちゃっている。開催前のプロセス、開催後、どう感じ、私たちはどう変わらなきゃという仕掛けをね、組織委やJOCがやっていかないと。これでは花火大会と同じで、きれいだったね、金メダルとったね、で終わっちゃう。札幌が2030年冬季五輪を招致するなら、なおさら検証や気づきを与えるような深い議論をしないと次に進めないですよ。

東京五輪の閉会式で国立競技場から打ち上げられた花火。大会が終わったからこそ、できることがある=2021年8月8日、東京都渋谷区の展望施設「渋谷スカイ」から

 〈終わった今だからこそ、つくれるレガシーがある。22年やるべきことは〉
 私、最近すごく感じるのは五輪に出て、メダリストとなって競技者として活躍できたわけです。ある意味、IOCの人たちと同じで特権階級なんです。特権とは背負ったもので、きちんと社会に還元していく。それが義務です。
 そのことを今回出場した選手に伝えていき、深い議論ができるようなコアな人材を育成していきたい。だって、五輪で頑張った、それで役割果たした、では寂しいですよ。
 東京大会を負の遺産にしないため、検証して、あのとき考えたよね、これをやろうとしたよね、でも実現していない、どうしたらいいの、と継続してやっていきたい。日本は伝統があって、男女の役割など一朝一夕に変わらないことってたくさんあります。オリパラを契機に少し軌道修正をして、振り返ったときに、やって良かったよね、となれば素晴らしいと思います。

 やまぐち・かおり 1964年生まれ。柔道の世界選手権52キロ級で80年大会から5大会連続メダル、84年には日本女子初の優勝。公開競技だった88年ソウル五輪で銅メダル。母校の筑波大柔道部女子監督や日本代表コーチを歴任。筑波大教授。JOC理事を10年務めた。東京都出身。

=東京五輪・パラリンピック後の日本スポーツ界を検証する4回連載<スポーツの指針>は今回で終わりです。

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