<虎寅トリビア>鯱(シャチ) @鴨川シーワールド

2022年1月8日 06時39分

豪快なジャンプによる水しぶきがすさまじい鴨川シーワールドの「シャチパフォーマンス」  

 魚へんに「虎」と書くシャチ(鯱)。英語名は「キラーホエール」(クジラの殺し屋)で、学名を訳せば「冥府の魔物」。どう猛で恐ろしいイメージが付きまとうが、実は好奇心旺盛で家族的な海洋ほ乳類なのだ。50年以上にわたってシャチを飼育する「鴨川シーワールド」(千葉県鴨川市)でシャチについて聞いた。

◆名は勇ましく家族的 鳥に餌やりも

太平洋を借景に繰り広げられる豪快なパフォーマンス

 国内で唯一、シャチのパフォーマンスが見られる鴨川シーワールド。四頭がトレーナーとショーを展開している。体長五メートル超、体重二トン超の体で跳び上がり、客席に水しぶきをかけるスプラッシュジャンプ。六メートルの高さにつるしたボールを尾でキックするルーピングキック。披露する技は八十種類にのぼる。
 餌はサバやホッケ。その食べかすを狙ってカモメが飛来する。するとシャチは驚くべき行動に…。
 「最初は水面に浮いた魚の破片を鳥が食べるのを見ていた。そのうち、鳥を誘うように魚のかけらを口先で差し出した。さらに、口から直接、鳥に渡すようになった」と金野(こんの)征記・海獣展示一課長=写真=は説明する。
 信じがたいが、動画も撮られている。シャチは「おもしろいから」やっていると推測され、好奇心旺盛である証しの一つとか。
 現在、国内では鴨川シーワールドで四頭、名古屋港水族館(名古屋市)で三頭が飼育されている。この七頭は血縁関係がある、いわば家族。

4頭勢ぞろい。左からルーナ、ララ、ラビー、ラン

 最初にシャチが日本にお目見えしたのは鴨川シーワールドが開業した一九七〇年だった。八八年までに計十頭が搬入され、九五年に初めて赤ちゃんが生まれたが三十分後に死んでしまった。
 九八年一月、ともにアイスランドから来たステラ(雌)とビンゴ(雄)の間に雌のラビーが誕生。その後、この二頭の間に四頭の雌が生まれた(一頭は二〇〇六年に死ぬ)。さらにラビーとオスカーの間にアース、ルーナという飼育下第三世代が誕生した。

トレーナーと息の合った演技を見せるラビー=いずれも千葉県鴨川市で

 国内で誕生かつ成育した第一号のラビーは寅年生まれ。十一日に二十四歳の誕生日を迎える。
 野生では群れで生活するシャチ。飼育下でもその生態は変わらず、家族的な結び付きが強いという。
 金野課長は「ポッドという集団を形成し、年上の雌が群れを束ねる。ここではラビーがリーダー。ラビーが機嫌を損ねることはあまりないが、名古屋港水族館に行ったステラは影響力が強かった。ステラが気が乗らなくて技をしないと、他のシャチもしないし、餌も食べなかった」と振り返る。

カモメの仲間に餌をあげたラビー(鴨川シーワールド提供)

 簡単に個体を識別する方法はアイパッチという目の後ろの白い模様だという。ラビーであれば右側の後方部分がかすれているのが、文字通り「目印」だ。
 いまではシャチを捕獲したり、輸入することは難しくなっている。フランスではシャチやイルカのショーを違法にする動きもある。国内の七頭は親戚なので繁殖を進めることも難しい。
 鴨川シーワールドはこれまで繁殖でも成果を上げてきたが、今後について金野課長は「人工授精という方法を想定しなければならない。すでにバンドウイルカやカマイルカでは成功している」と話している。

◆虎の雌はヒョウ!?

 徳川家康にちなんだ建造物には虎の彫刻が多い。家康が寅(とら)の年、寅の日、寅の刻に生まれたという言い伝えから虎をモチーフにしたものが施されたらしい。
 秩父神社(埼玉県秩父市)は一五六九年に焼失したが、家康によって一五九二年に再建された。社殿正面には虎の彫刻があり、このうち「子宝・子育ての虎」は名工左甚五郎の作とされる。ただ、子どもの虎三頭と戯れる母親とみられるほうは、しま模様ではなく、斑点模様だ。

左甚五郎作とされる秩父神社の「子宝・子育ての虎」(秩父神社提供)

 秩父神社権禰宜(ごんねぎ)の新井君美(きみよし)さんは「戦国時代や江戸初期、虎は雄がしま模様、雌が斑点模様と信じられていたから。このような例はほかの彫刻や絵でもある」と話す。日本に生息しない動物だからヒョウが虎の雌と思われていたようだ。
 一六三六年建立の日光東照宮(栃木県日光市)の表門にも同じような構図がある。梁(はり)の上に一対の虎の彫刻があり、左の雌とみられるほうは斑点模様になっている。
 名古屋城本丸御殿に伝わる国指定重要文化財のふすま絵「竹林豹虎(ひょうこ)図」は十七世紀初めの狩野派絵師の作とされる。名古屋城調査研究センターの朝日美砂子学芸員は「ヒョウが虎の雌として描かれた」と説明。「豹虎」の名称は昭和に入ってから付けられたといい、以前は「竹虎(ちっこ)図」だった。
 「虎」と「寅」にまつわる豆知識を紹介するこのコーナーは一月十五日、二十二日にも掲載します。
 文・桜井章夫/写真・田中健
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