賃金破壊労働運動を「犯罪」にする国 竹信三恵子著

2022年1月9日 07時00分

◆国策としての労組潰しの深層
[評]斎藤貴男(ジャーナリスト)

 グローバル化が加速した一九九七年以降の四半世紀を通して、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。米英仏独伊のいずれもで、20〜30%は上がっているのに。
 “異次元”も窮まった賃金デフレ。見せかけだけの“アベノミクス”の主が表舞台を去り、ようやく知れ渡った日本経済の実態を読み解くカギのひとつが、本書にはある。
 練達の労働ジャーナリストが、「関西生コン事件」の深層を活写した。生コンクリート輸送の運転手らを組織した「全日本建設運輸連帯労働組合」の関西支部を標的とする、国策としての労組潰(つぶ)しだった。
 二〇一八年夏から一年間で延べ八十九人が逮捕され、うち七十一人が起訴された。同じ人物の逮捕や勾留を、いくつもの警察署が重ねていく。凶悪犯並みに住所まで晒(さら)す報道。検察の求刑は殺人罪を連想させるほど重かった。
 関生支部のような産業別組合には、企業別組合とは異なる戦術がある。国際的にはそれが普通だし、ほとんどが企業別組合の日本でも、もちろん法的に認められた活動だ。
 それでも弾圧された理由。本書によれば、当局は彼らの正当な組合活動を、「カネ目当て」の「嫌がらせ」「脅し」「不当な圧力」などと言い換えることで、暴力団などの組織犯罪と同然に扱ったという。
 いかなる無理無体も、言葉の表記や定義を変えてしまえば“問題ない”。縮小するパイの分配先から労働者を外すためなら、人間の生存に関わる労働基本権だろうと容赦なく、だ。集団的自衛権の行使を容認する新法に「平和安全法制」の名を与えた安倍晋三政権らしい、憲法二八条の「解釈改憲」と言うべきか。
 事件におけるメディアの問題にも一章が割かれている。朝日新聞出身の著者による構造的陥穽(かんせい)の指摘は生々しい。記者の取材よりSNS上の空気を優先するデスクが現実にいるらしいとは呆(あき)れた。
 このままなら、賃金デフレは一層の深みに嵌(はま)り、日本の何もかもがジリ貧になっていく。だが著者は希望を捨てない。ラストの一行に感じ入る。
(旬報社・1650円)
ジャーナリスト・和光大名誉教授。著書『しあわせに働ける社会へ』など。

◆もう1冊

葛西敬之(よしゆき)著『国鉄改革の真実 「宮廷革命」と「啓蒙運動」』(中央公論新社)。労組を潰したい側の論理とノウハウ。

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