発達障害という才能 岩波明著

2022年1月9日 07時00分

◆発想力 受け入れ、生かそう
[評]香山リカ(精神科医)

 精神科医が書いた発達障害の本。そう聞くと障害の特徴や治療に関するガイドなのか、と思うかもしれない。しかし、本書のテーマはそこにはない。発達障害の人たちが内に秘める「社会や文化をがらりと変える力」を受け入れ生かしていこう、と世の中に呼びかける意欲作なのである。
 発達障害といってもいくつかの種類があるが、本書で主に取り上げられているのは「対人関係の障害」と「特定の事物へのこだわり」を特徴とするASD(自閉症スペクトラム障害)と「衝動性、落ち着きのなさ」を特徴とするADHD(注意欠如多動性障害)だ。しかし、本書でそれぞれの障害の解説に割かれるページはわずか。あとはビジネスやアートの世界で名を馳(は)せる人たちが次から次へと登場し、それぞれが持つ発達障害の特性とそれをどう仕事や創作に生かしたのかが語られる。たとえばイーロン・マスクやオードリー・タンはASD、エジソン、モーツァルト、ピカソ、ニトリ創業者はADHD。ダ・ヴィンチに至っては両方の特性があるという。まさに華麗なる人脈だ。
 ただし、と著者は言う。彼らがこの特性を社会的成功として花開かせるためには、「周囲に当人の能力を見抜いて適切なサポートをする人物」と「制約なく活躍できる場所」が必要。そして著者は、日本は「その真逆」だとして、才能ある個人を育てようとせず、しきたりや世間の「空気」に従わせようとする傾向が強いと指摘する。こういった不寛容さは発達障害の特性を持つ人たちだけではなく、すべての人を萎縮させ生きづらくしているだろう。
 そう、発達障害の人たちが評価されてさまざまな場で戦力とされる社会は、ほかの人たちにとっても楽しめるストレスフリーな場であるはずだ。もちろん、勤勉、几帳面(きちょうめん)などは我々の強みでもあるが、そこからはずれた人を抑圧せずその過剰な集中力や発想力をおおいに生かそう。豊かな臨床経験を持つ精神科医の前向きな提案は、当事者や家族だけではなく、社会全体に希望を与える道しるべとなろう。
(SB新書・990円)
1959年生まれ。精神科医。昭和大医学部精神医学講座主任教授。『発達障害』など。

◆もう1冊

酒井由紀子著、隅田学監修『才能はみだしっ子の育て方』(主婦の友社)

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