日本移民日記 MOMENT JOON(モーメントジューン)著  武器としてのヒップホップ ダースレイダー著 

2022年1月9日 07時00分

◆同調社会に亀裂を
[評]いとうせいこう(作家)

 注目すべきラッパー二人が各々(おのおの)興味深い本を出した。
 一冊は韓国人で日本に住むモーメント・ジューンによるもの。彼はいわゆる連行の記憶につながる“在日”とも異なり、本の中でも領事館で「ニューカマー」なる言葉で呼ばれる阪大の大学院生であり、魂に刺さるアルバムをリリースしているラッパーだ。
 そもそもかつて「文句あるやつは会いに来い」と自らの住所を明かした曲でもド肝を抜いた彼は、自分の立場を「移民」と名指し、世界中に普遍的に存在する者の目でこそ、日本の同質性社会への異和を徹底して表現する。
 孤立を前提とした彼を支えるのはマネージャーのシバさんと、ヒップホップそのもので、特に後者に関しては黒人たちが自らを差別用語で呼ぶことの価値転倒を、朝鮮人への侮蔑的呼称との比較で分析する章は読みがいがある。
 ヒリヒリしたユーモアで読者の安穏な地平を崩すのも著者のラップ同様に特徴的だ。
 続いてダースレイダーの一冊は、インターナショナルな経歴を持ちながら若くして脳梗塞に倒れ、左目を失明し、その後の病で余命五年と宣告されたラッパーの、煽(あお)りたてるようなヒップホップ賛歌であり、何も知らない読者もそのジャンルの基礎から力の源泉までを知ることの出来る本。
 俯瞰(ふかん)的で核心的な解説をラッパーらしくリズミカルに語る中、著者個人のリアルな訴えが腑(ふ)に落ちる。例えば「病人らしくしろ」という同調圧力が彼を取り巻けば、途端に「ド派手な病人」として自らがデザインしたポップな眼帯を身につけ、それをブランド化さえする愉快な反骨。
 またラップのイメージにありがちな男性優位主義に関しても、著者は「ヒップホップの現場には最初から女性がいた」という事実を強調する。これも同調圧力への抗議だ。
 こうして単一化に亀裂を入れるラッパーたちの著作を前に、読み手も各自の方法で声と手を上げたくなるはずだ。
 日本移民日記(岩波書店・1870円)
 武器としてのヒップホップ (幻冬舎・1540円)

MOMENT JOON ソウル出身のラッパー。2019年『文芸』にデビュー小説「三代 兵役、逃亡、夢」発表。
ダースレイダー 1977年生まれ。本名・和田礼。ラッパー、作曲家。『ダースレイダー自伝 NO拘束』。

◆もう1冊

TwiGy著『十六小節』(ele−king books)

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