スポーツ現場で消えぬ「暴力」 増えるパワハラ・暴言…大阪・桜宮高バスケ部員の自殺から9年

2022年1月10日 06時00分
 2012年12月に大阪市立桜宮高校バスケットボール部の男子生徒が顧問から指導として平手打ちなどの体罰を受け自殺した問題から9年が過ぎた。スポーツの現場、指導者は変わったのか。今なお、暴力行為がはびこり、新たな問題も浮かび上がる。(森合正範)

◆「根絶宣言」で声上げやすく

 「指導者の意識は変化してきたが、不適切な行為があるのは変わっていない。相談件数も増え続けている」。日本スポーツ協会スポーツ指導者育成部の栗原洋和さんはそう語る。
 桜宮高の問題と柔道女子日本代表らが指導者から暴力やパワハラを受けていたことが13年1月に発覚。これらを契機に学校の運動部活動での指導ガイドライン、指導者らに対する処分基準が策定された。
 同年4月、日本体育協会(現日本スポーツ協会=JSPO)や日本オリンピック委員会(JOC)、全国高等学校体育連盟など5団体は「暴力行為根絶宣言」を採択した。指導者は体罰への意識を高め、ここからスポーツ指導は大きく変わったとされている。その後、各種団体に相談窓口が設置され、選手や保護者が声を上げやすい状況になった。

◆指導は進学・就職にも影響

 栗原さんは「確かに根絶宣言以降は、殴るなど直接的な暴力は減少傾向にある。しかし、パワハラと暴言の割合が増えてきた」と危ぶむ。パワハラは、必要以上の追い込み練習や指導をしない、無視する、合理的な理由がないのに試合に起用しないなど。指導者が選手の進学や就職に影響を及ぼすこともある。
 日本スポーツ協会暴力行為等相談窓口への割合では、14年度は「暴力」が31%と最も多かったが、21年度は「パワハラ」が36%で「暴言」と合わせると6割を超える。19年度、部活動中の体罰による処分は以前より減ったとはいえ、153件あった。なおも暴力行為がはびこる状況が続く中、パワハラや暴言が増えているのが現状だ。

◆「体罰で好成績」が被害を再生産

 現役時代に体罰を受けて成績を残し、成功体験になっている指導者もいる。栗原さんは「体罰はスポーツでも親子関係でも2次生産されるのは避けて通れない。克服するにはトレーニングが必要」と指摘した。
 日本スポーツ協会は18年度から「コーチデベロッパー」と呼ばれるコーチの指導者を養成している。コーチデベロッパーで桐蔭横浜大スポーツ科学研究科の渋倉崇行教授(49)は「人の価値観は自分の体験をもとにしてつくられるので、なかなか変わりにくい。暴力、パワハラは駄目だと理解しても、それに代わるコーチングが分からない人もいる」と現状を分析した。
 新しい指導法に悩み、「これで正しいのか」と不安を抱えるコーチは多い。渋倉教授は「コーチ同士の交流があまりない。研修会などで学び、他のコーチと悩みを共有し、意見交換することで消化できる」と話している。
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◆「指導者は学び続ける姿勢が大切。私もずっと学び続ける」

 「現場の指導者に直接届けることができるので、コーチ育成の仕事はとてもやりがいがある」。渋倉教授は研究者とコーチの橋渡し役にこだわる。

研究者とコーチの橋渡し役にこだわる渋倉崇行教授

 新潟南高時代は野球部に所属し「4番・投手」で甲子園の土を踏んだ。「殴られ、蹴られ、理不尽なことに耐えながら勝利を目指すのがスポーツだと思っていた」。だが、大学の講義で「スポーツは楽しい」と学び、自らの経験を否定された。もっと追究したいと考え、研究の道に進む。
 学んでいくうちに「もし体罰を受けていなかったら、もっともっとうまくなれた」と気づいた。高校では失敗を恐れ、萎縮しながら練習していた。救いは指導者の目を盗み、目標設定をし、計画を立て、効果的な練習を自主的にやっていたことだ。「監督やコーチの指導ではなく、自分で考えて行動したから甲子園に行けた」。日々の計画や練習内容を記したノートは今も大切に保管している。
 転機は桜宮高の問題。当時、新潟県立大の准教授としてスポーツ心理学を研究していた。「スポーツの発展に貢献したいと考えていたのに、自分は研究者として、いったい何をしていたのか。自分を責め、反省した。この問題に関与して、行動したいと感じた」。研究者と指導者の間に接点が必要と考え、2014年12月、主に指導者を支援する「スポーツ フォー キッズ」を設立した。
 高校時代のようなつらい思いを誰にもさせたくない。ましてや、桜宮高のような悲劇を繰り返してはならない。「指導者は学び続ける姿勢が大切」と言った。だからこそ、己にも課題を与える。「今の時代に即したコーチングを提供する、そういった研修会を持てるように、私もずっと学び続けます」

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