核抑止論へ走りだしたロシア…太平洋にらみ核弾頭配備 最新型原子力潜水艦を異例公開、見学ルポ

2022年1月12日 16時00分

2020年12月、オホーツク海でウラジーミル・モノマフから実験発射される弾道ミサイル=ロシア国防省提供

 ロシアがアジア太平洋をにらんで核弾頭の配備を急いでいる。弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)2隻を新たに極東に展開し、対立する国々に核戦争が勃発した際の「壊滅的な報復措置」を示唆する。東西冷戦が終結し、ソ連崩壊から30年を経た今、ロシアは再び核抑止論へと走りだした。 (ロシア極東・ルィバチで、小柳悠志、写真も)

原潜ウラジーミル・モノマフの艦上に並ぶ弾道ミサイルの発射口

 昨年10月、ロシア国防省から極東軍事ツアーに招かれた。見学の目玉が、カムチャツカ半島にある太平洋艦隊の原潜基地ルィバチ。周辺は軍関係者のみが入れる閉鎖都市で、記者を乗せたバスには軍特殊部隊が同行、景色を観察できないようカーテンが閉め切られた。
 案内されたのが原潜「ウラジーミル・モノマフ」。「ボレイ級」と呼ばれるロシアのSSBNの最新型で、記者たちの足元には16のミサイル発射口が並ぶ。それぞれのミサイルが6つの核弾頭を備えるとされ、軍事に詳しい小泉悠・東大専任講師によると、ボレイ級1隻で数十都市を壊滅させる能力がある。

ロシア太平洋艦隊潜水艦部隊のトップ、ナバルスキー少将

 「この艦をさらに発展させたボレイ級2隻が、近いうちにルィバチに配備される」。太平洋艦隊潜水艦部隊司令官のアルカディ・ナバルスキー少将は淡々と語った。
 SSBNは、地上から発射する大陸間弾道ミサイル(ICBM)、戦略爆撃機と並んで核戦略の3本柱の1つ。海深くに潜むため、敵に位置を察知されにくい。核戦争で祖国が焦土と化しても、生き残った原潜が核のミサイルで敵国に反撃する。米ソは冷戦期、互いを滅ぼす核戦力をそろえることで「恐怖の均衡」と呼ばれる核抑止を生み出してきた。
 ナバルスキー氏によるとボレイ級は「90日以上、自律的な作戦遂行が可能」という。また同氏はロシアメディア「RT」の取材にボレイ級が搭載する弾道ミサイルを前に「敵国の迎撃装置は役に立たない」と自信を見せた。
 防衛研究所の長谷川雄之研究員によると、目下進むアジア太平洋での原潜拡充はロシア外交の「東方シフト」と一体だ。
 ロシアは2014年、欧米志向を強めるウクライナのクリミア半島を併合、欧米との関係が決定的に悪化し、核抑止強化に動いた。欧米から対ロ制裁を受ける中でアジア新興国との軍事・経済の関係強化が重要になり、米中対立が強まるアジア太平洋地域で軍事プレゼンスを高めようとしている。
 昨年9月には米国、英国、オーストラリアが安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設し、豪州が原潜を建造することに。ロシアは、歴史的に対立する英国の影がアジア太平洋に現れたことにいら立ちを強めている。
 年末にはプーチン大統領がルィバチに配備される原潜の就役式に参加。「ロシア軍にとって歴史的な日だ。原潜は(敵に)恐怖の一撃を与える」と演説し「潜水艦や艦船の現代化のテンポも速めなければ」とげきを飛ばした。
 ロシア紙モスコフスキー・コムソモーレツは昨年末、ロシア軍が極東で原潜の配備を急ぐことを根拠に「世界の対立の中心は、欧州から太平洋に移りつつある」と分析した。

◆普通はあり得ない公開、狙いは

 小泉悠・東大専任講師の話 ルィバチは核戦略の最前線で、外国人を立ち入らせるのは異例。機密のかたまりである原潜に記者を乗せるのも普通ではあり得ない。国際情勢に則した情報発信の意図があったはずだ。
 核抑止は敵国を怖がらせることで成立する。一切を秘密にするよりも、少しだけ手の内を明かすことで効果が高まる。原潜だけでなくルィバチの街の近代化などをPRする狙いがあったのだろう。
 太平洋艦隊の弾道ミサイルは冷戦期を含めて対米を想定したものだ。最近の国際関係は、米中対立が軸となり、ロシアの存在感は下がっている。原潜公開は核大国であるロシアの軍事プレゼンスをアピールする意図があったと考えられる。

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