パリ・パラリンピック・柔道 全盲選手に門戸広がる 課題は体重差

2022年1月13日 06時00分
<パラ競技の公平性とは~クラス分けの現在地㊤>
 パラリンピックなどの大会で、パラアスリートが公平に競うために欠かせないのが、障害の種類や程度によって選手を区分けする「クラス分け」。本来、障害は多様できっちりと区別できるものではないが、パフォーマンスへの影響を限りなく小さくするため、常に基準が見直されている。国際パラリンピック委員会(IPC)が昨年11月に発表した2024年のパラリンピック・パリ大会の実施種目では、視覚障害者が出場する柔道を全盲と弱視の2クラスに分ける大きな変更があった。クラス分けの現状、そしてあるべき姿を、2回に分けて考える。(兼村優希)
 多くの支援が必要な重度障害者の出場機会を広げる―。IPCはパリ大会での柱の一つにそう掲げる。柔道の新たなクラス分けの導入はこの流れをくみ、障害の重い全盲選手へ門戸を広げるためのものだ。
 これまでは全盲から弱視までの選手が障害の程度にかかわらず、男女の体重の階級別のみで闘っていた。競技人口が少ないという事情や、畳の上では皆平等という柔道の精神もある。見えない選手に不利とならないよう、組み合った状態で競技を始めるなどの工夫がされてきた。だが、ある程度見える選手と全く見えない選手が闘うのは本当に公平なのか? 疑問を呈する声はずっとあった。

パラリンピック東京大会の柔道男子66キロ級3位決定戦でジョージアの選手(下)を攻める瀬戸勇次郎。パリ大会では、階級の変更を余儀なくされる

◆複雑な思いの男子エース

 国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)も今月、柔道の新たなクラス分けの詳細を公表。男女それぞれで全盲と弱視の2クラスに分け、体重による階級は四つずつに統合する。今年3月のエジプトの国際大会で最初のクラス分けを行うという。
 男子のエース瀬戸勇次郎(21)=福岡教育大=は弱視。「柔道は障害の程度に関係なく一緒にできるのが良いところだと思っていた。ただ、全盲の方に必要なら、受け入れるしかない」と複雑な思いを抱く。しかも、自身が東京大会で銅メダルを取った66キロ級がなくなり、60キロ級に下げるか、73キロ級に上げるかの二択を迫られている。

◆過去7年間の結果を分析

 国際クラス分け委員の資格を持つ国立障害者リハビリテーションセンター病院の清水朋美医師(55)によると、視覚障害のクラス分けは、対象選手の多い肢体不自由に比べて発展が遅れている。競技にかかわらず、視力や視野の状態でクラスを分けてきたが、10年ほど前から競技特有の条件を考慮したクラス分けへの切り替えを目指してきた。IPCから依頼され、オランダのアムステルダム自由大学が動作分析や聞き取り調査などを交えて、競技別のより公平なクラス分けを模索している。

日本では数少ない視覚障害の国際クラス分け委員を担う清水朋美医師=埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンター病院で

 柔道の調査は16年に開始。同大学の研究論文は、過去7年間の大会結果から「視力は柔道の勝率と有意に関連している。盲目の選手は、部分的に視力のある相手と闘うときに不利になる」とデータで裏付ける。視覚が残る選手同士の対戦には見え方の差が影響しないことも分かり、全盲とその他を分けるのが望ましいと結論づけた。
 清水医師は「一つ前進。ただ、クラスを増やすために階級を減らすと、体の大きさに違いのある選手同士が闘うことになって、それで競技が成立するのかという問題もある」と悩ましげ。残り2年半のパリ大会に向け、選手たちは変わりゆく競技のあり方への対応が求められている。

◆クラス分けの担い手育成も必要

 国際クラス分け委員は、医療従事者らが担い、医学的診断や競技中の体の動きなどから選手の障害の程度を判断する。清水医師は2011年にIBSAとIPCが合同で開いた養成講習会に参加した一期生。視覚障害の国際クラス分け委員は現在、世界では19年に更新講習を受けた50人がいるが、うち日本人は2人のみ。清水医師は「そもそも、眼科医にそういう仕事があると全く知られていなかった」と苦笑する。
 競技現場に正しい知識を伝えるためにも、人材育成は急務だ。13年にパラリンピック東京大会の開催が決まると、パラスポーツへの理解が進む中で、クラス分け委員に関心を持つ眼科医も少しずつ増加。この年を境に、障がい者スポーツ医の資格を取る人も格段に増えた。
 IPCなどは「世界に50人いれば大丈夫」と、当面新規の認定講習会を開く予定はないというが、清水医師は「委員の年齢層も上がり、亡くなった方もいる。興味を示す若手がいるのに、もったいない」と言葉に力を込める。陸上の国内大会などでクラス分けを行うときは、希望する障がい者スポーツ医の眼科医に立ち会ってもらい、ノウハウを伝えるようにしている。


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