観音堂に響く「ルパン三世のテーマ」!? 弾けば極楽、寺ピアノ 各地に広がる街角ピアノの魅力とは

2022年1月13日 07時12分

観音堂のピアノを弾く松村康生さん

 誰でも気軽に弾くことができる「街角ピアノ」。駅や空港、商業施設などに広がり、寺の境内にも登場した。人の心を捉えて放さない魅力とは−。
 鎌倉時代の創建と伝わる正光寺(しょうこうじ)(東京都北区)。広い境内に足を踏み入れると、迫力あるピアノの演奏が聞こえてきた。
 観音堂で「ルパン三世」のテーマ曲を弾くのは、川崎市の中学三年松村康生(こうせい)さん(15)。お堂は天井が高く、音が豊かに響く。松村さんは「とても雰囲気が良いので、時々弾きに来ています」と満足げだ。
 他にも音大卒の女性がボサノバを奏でたり、近所の女児が見よう見まねで鍵盤を押してみたり…。
 境内では、演奏を聴きに来た近所の人と演奏者が和やかに語らっていた。差し入れの和菓子、熱いお茶も振る舞われ、話が弾む。
 近所に住む大久保ヒロ子さん(74)は、二年前に夫を亡くした。「ご飯を一人で食べてもおいしくないの。家で泣いているより、ここに来た方がいい」。演奏に合わせ、体を揺らした。
 「寺ピアノ」の仕掛け人は、芝浦工業大の武藤正義教授(45)だ。北区在住で、ピアノの腕も達者。大学でソーシャル・イノベーション(社会変革)の授業を担当し、区内外の商店街などでピアノを呼び物にしたイベントを開催してきた。
 正光寺の住職と意気投合し、観音堂にピアノを常設したのは二〇二〇年秋。寄贈された楽器に地元の名所や風物を描き、原則的に週二回開放している。
 武藤教授は「子どもからお年寄りまで、多世代交流の場を作りたかった。地域文化の発信、シビックプライド(市民の誇り)の醸成にもなる」と語る。

観音堂の前で、お茶を飲みながら語らう武藤正義教授(右から2人目)ら=いずれも北区の正光寺で

 街角ピアノは「ストリート・ピアノ」「誰でもピアノ」と呼び名はさまざまだが、〇八年に英国で注目を集め、国内では一一年、鹿児島市の商店街への設置が初とされる。急速に広がり、インターネットの専門サイトでは全国約四百八十カ所が紹介されている。
 誰よりも喜んでいるのは、無数のアマチュア・ピアニストだろう。ピアノは本来、孤独な楽器だ。練習も発表会も一人で弾くばかりで、バイオリンやトランペットのように楽団仲間ができることもない。
 JR高輪ゲートウェイ駅(港区)のピアノを一心に演奏する女性(47)がいた。二十数年前に弾くのをやめ、コロナ禍で自宅勤務が増えたのを機に本格的に再開したという。街角で弾き始めると、演奏者同士の交流が楽しみになったそうだ。
 長年、アルバイトや派遣で職場を転々とし、引きこもりや離婚も経験した。
 「大人になってから否定されることばかりで、自己肯定の機会があまりなかった。でも、ピアノに一生懸命に取り組むことで、成長や幸せを味わえるようになった。人生が戻ってきた気がします」
 人と人とをつなぎ、地域を変える街角ピアノ。心に、潤いや癒やしさえ与えているようだ。

 正光寺のピアノ 開放は日曜と月曜の午後1〜4時。天候などにより利用できない日もあり、当日午前にツイッター(検索ワード「寺ピアノ」「岩淵パブリックピアノ」)で利用可否を発信する。住所は北区岩淵町32の11。JR赤羽駅から徒歩5分、東京メトロ南北線赤羽岩淵駅から同1分。

◆街角ピアノも探してね
【都庁 南展望室】

デザインは前衛芸術家草間彌生さんが監修=新宿区で

【ミヤシタパーク】

キットカットショコラトリーのミヤシタパーク渋谷店のピアノ。黒鍵がカラフル=渋谷区で

【シモキタフロント】

小田急線下北沢駅東口の商業ビル「シモキタフロント」のピアノ=世田谷区で

【高輪GW駅】

JR高輪ゲートウェイ駅のピアノ=港区で

 新型コロナウイルスの感染状況によっては、開放を見合わせるところもあります。
 文と写真・臼井康兆
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