パラリンピック水泳クラス分けに「不信感」 競泳メダリスト鈴木孝幸選手が目指す改善

2022年1月14日 05時50分
<パラ競技の公平性とは~クラス分けの現在地㊦> 
 パラリンピック東京大会の競泳で金を含む5つのメダルを獲得した鈴木孝幸(34)は2020年夏、留学中の英ノーザンブリア大大学院の修士論文で「パラ水泳のクラス分け」について現役選手に聞き取り調査をした。クラス分けの検査を受ける中で感じた課題や「インテンショナル・ミスレプリゼンテーション(IM、競技で有利になるために自分の障害を故意に重く見せること)」の問題など、浮き彫りになった点を選手目線で語る。(聞き手・兼村優希)

「クラス分け制度はまだ発展途上」と語る鈴木孝幸

すずき・たかゆき 1987年、浜松市生まれ。先天的に四肢欠損。パラリンピックには2004年のアテネ大会から5大会連続出場。これまでに金2個を含む10個のメダルを獲得してきた。ゴールドウイン所属。

◆障害を故意に重く見せる問題も

 現行のクラス分け制度は発展途上だと思います。選手たちも全員にはフィットしていないと感じているようですし、国際パラリンピック委員会(IPC)も研究を続けています。論文では、日本と海外の肢体不自由の水泳選手計7人に、現状のクラス分けに満足しているか、満足していない部分はどこか、IMはパラ水泳でも起きているか―の3点を中心に聞きました。水泳は障害を区分けせず、泳力が一緒ならば同じクラスに入るので、車いすや義足などと分かれる競技に比べて実情は複雑に感じます。
 問題点で挙がったのは、クラス分け委員のスキルに差があること。障害によって速く泳ぐこつがありますが、クラス分け委員が理解していないと感じる場合があり、もっと水泳の知識をつけてほしいとの意見がありました。また、競技観察のやり方への不満も。現状は、どのレースで競技観察をされているか選手にも分かる状態なので、IMを防ぐ意味でも、ドーピング検査のように抜き打ちでチェックした方がいいのではないかという声も上がりました。
 虚偽申告すれば、クラスがもらえず、大会にも出られなくなります。それでもIMとおぼしき事例を見聞きした選手が多く、驚きました。普段はつえをついて歩く選手がコーチに「車いすに乗ってクラス分けに行ったら」と勧められたとか、競技観察でベストより10秒以上遅く泳いだ選手がクラスが確定して1週間後のレースではベストに近いタイムで泳いだとか。不信感を抱いている選手はいます。

東京パラリンピック、競泳男子50メートル平泳ぎ(運動機能障害SB3)で銅メダルを獲得した鈴木孝幸(右)。異なる障害の選手が同じクラスで泳ぐこともある=昨年8月、東京アクアティクスセンターで(共同)

◆現行制度を信じ切れない部分ある

 改善には、デジタル技術の導入や科学的根拠の裏付け、クラス分け委員の教育などが挙がりましたが、特に興味深かったのは、選手自身の教育も必要という意見でした。人為的ミスはゼロにできなくても、選手が自分の障害や手順を理解していれば、アピールできるはず。システムを変えるよりも簡単で、今すぐにできることですよね。
 障害は千差万別で、公平性を100パーセント保つのは難しいでしょう。ただ、多少の差があるのは仕方ないとして、「そのクラスの枠に入っているよね?」と、選手たちが納得できるような質の高いクラス分けができるよう願っています。今は、この人はクラスが違うんじゃないかとか、クラス分けのやり方などに不満があり、現行の制度を信じ切れない部分があると思うんです。私はIPCのアスリート委員として、今後もクラス分けの改善に関わっていくつもりです。今回の論文はパラ水泳の肢体不自由に特化したものですが、アスリート側の意見として伝え、選手が信じられるクラス分け制度が確立できるよう貢献したいです。

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