<歌舞伎評 矢内賢二>歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」ほか 猿之助の充実ぶり

2022年1月14日 07時31分

「義経千本桜」の(左から)市川猿之助、中村雀右衛門、市川門之助 ©松竹

 歌舞伎座では第三部「義経千本桜 四(し)の切(きり)」が大当たり。市川猿之助の佐藤忠信は、花道を出ての思い入れから本舞台での長ぜりふ、引っ込みに至るまで、ことさらに派手なことをせぬのに主君義経への敬慕の情が深く濃くしみわたるよう。狐(きつね)忠信の哀れさ、親子の情愛も申し分なく、猿之助の充実ぶりが見もの。市川門之助の義経はふっくらとした柔らかみがあって、述懐の長ぜりふもしみじみと聞かせる。また中村雀右衛門の静御前は華やかさと色気に富み、二人ともに持ち役で実力を十分に発揮。この三人の芝居がしっくりと噛(か)み合って感動的な舞台になった。
 第一部「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」は中村勘九郎の大蔵卿(きょう)。線の太い持ち味が生きて、本心を明かしてからの颯爽(さっそう)とした立派さが際立つ。中村扇雀の常盤御前、中村獅童の吉岡鬼次郎、中村七之助のお京。「祝春(いわうはる)元禄花見踊(はなみおどり)」では獅童長男の小川陽喜(はるき)が初お目見得(めみえ)。奴(やっこ)姿の可愛(かわい)らしさで客席を沸かせる。二十七日(十九日は休演)まで。
 国立劇場は尾上菊五郎劇団得意の「通し狂言 南総里見八犬伝」。円塚山(まるづかやま)の場は菊五郎の犬山道節(どうせつ)が錦絵のような相貌と貫禄とを堪能させる。幕外は犬飼(いぬかい)現八の尾上松緑と犬江親兵衛の尾上左近が親子揃(そろ)っての引っ込みという趣向でおもしろい。芳流閣の場は尾上菊之助の犬塚信乃と松緑の現八によるおなじみの大立ち廻(まわ)り。楽しめる初芝居だが、衣装や音響効果などに現代的な新味を加えた部分がせっかくの歌舞伎味を減じて惜しい。二十七日(二十日は休演)まで。(歌舞伎研究家)

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