<新お道具箱 万華鏡>浪曲師のテーブル掛け ファンと演者をつなぐ

2022年1月14日 07時32分

玉川奈々福のテーブル掛け。5点すべてを飾るフルバージョン。金魚の絵は現代美術家の深堀隆介氏が描いた(写真提供・玉川奈々福、撮影・多田裕美子)

 浪曲の舞台になくてはならない道具といえば、「テーブル掛け」。なんだか気安い名称だが、食卓で使うアレとは違う。
 浪曲界のそれは立派な舞台美術。絵柄や文字が入った装飾用の大きな布で、浪曲の舞台空間を見事に作り上げる。初めて浪曲を見たときは、卒業式のような設(しつら)えにびっくりした。謎多きテーブル掛けについて、浪曲師の玉川奈々福さんに話を聞いた。

国友忠のテーブル掛け(背掛け)を持つ玉川奈々福。通常は、背掛けには流派の紋が入るが、文久永宝が描かれている

 まず知っておきたいのは、テーブル掛けは、浪曲師が自前で用意しているということ。たとえば浪曲の本拠地・木馬亭(東京・浅草)の定期公演では、次々と浪曲師が登場するが、各人が自前のテーブル掛けを持参しているので、都度、飾り直しをする。
 「基本的にはご贔屓(ひいき)のお客さまから贈ってもらうものなんですよ。贈り主の名前が入ることが多いですが、入らないときもあります」

三代目玉川勝太郎のテーブル掛け(部分)。スパンコールが渋く輝く

 東京の浪曲師は、浅草にあるお祭りの旗などを扱う店で作ることが多いそうだ。舞台が広くて正式な場、たとえば浪曲大会や独演会などでは、演台に掛けたり演者の後方に飾る背掛けなど含め一揃い五点(枚)、木馬亭では三点というふうに飾り方にもルールがある。
 落語や講談に比べて、舞台が大仰なのは、自由民権運動の演説の流れを汲(く)んでいるからだという。
 芸能の道具は、時代を反映し記録する役割も持つ。奈々福さんは、前の世代の浪曲師のテーブル掛けを形見として受け継いでいるというので、和室に一枚ずつ広げて見せていただいた。

<1>奈々福の師匠・二代目玉川福太郎のテーブル掛け

<2>三代目玉川勝太郎のテーブル掛け

<3>国友忠のテーブル掛け

 奈々福さんの師匠・二代目玉川福太郎(一九四五〜二〇〇七年)のテーブル掛け=写真<1>=は、故郷・山形県の月山と最上川の風景。贈り主は山形庄内後援会。福太郎の師匠・三代目玉川勝太郎(一九三三〜二〇〇〇年)のテーブル掛け=同<2>=は、色街のカフェーから贈られたもので艶(つや)やか。スパンコールや刺繍(ししゅう)があしらわれ、技巧的。神保朋世画伯の筆で銭形平次が描かれたテーブル掛け=同<3>=は、国友忠(くにともただし)(一九一九〜二〇〇五年)の愛用品。贈り主は小説「銭形平次捕物控(とりものひかえ)」で有名な作家の野村胡堂。
 贔屓の浪曲師にテーブル掛けを贈る。もらう人も嬉(うれ)しいだろうが、贈る方も心が躍ったことだろう。テーブル掛けは、応援する人と浪曲師をつなぐ道具でもある。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子) 

◆公演情報

<新春!シネマ浪曲新作大公開in木馬亭> 二十八〜三十日、東京・浅草の木馬亭。伝説の浪曲師たちの記録映像の上映や鼎談(ていだん)、座談会、浪曲ライブが日替わりで楽しめる(全五回)。三十日午後四時半開演の夜の部に玉川奈々福が出演予定。チケット予約は秀真(ほつま)=(電)03・5391・1035。

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