<社説>岩波ホール 「閉館の連鎖」断ちたい

2022年1月14日 07時48分
 日本のミニシアターの先駆けとなった東京・神田神保町の「岩波ホール」が、七月に閉館する。コロナ禍で劇場運営が困難と判断した、という。映画界では絶大な存在感を持つ施設だけに、他館への影響が心配だ。この国の映画文化を守っていくためには、公的な支援の拡充も考えたい。
 「単に映画館が一つなくなるというだけではない。映画の未来がどうなるのか」と映画人が嘆くのも無理はない。一九六八年に開館した同館は、埋もれた名作を上映する「エキプ・ド・シネマ(映画の仲間)」運動を七四年に開始。サタジット・レイ監督の「大地のうた」など、六十五の国・地域の二百七十一作品を上映して、ミニシアターブームを巻き起こした。
 映画は世界の各地で製作され、題材も、脚本や俳優、演出なども実に間口の広い芸術だ。そうした多様さを象徴する存在の一つが、岩波ホールだったと言っても過言ではない。折も折、海外から邦画「ドライブ・マイ・カー」絶賛の報が届く中、国内では日本を代表する映画館が消えるのは残念だ。存続の道も探ってほしい。
 閉館の背景は、観客層が高齢化する一方で、若い世代を取り込みきれなかったこととされる。今や若者にとって映画とは、パソコンやスマホで手軽に楽しめる娯楽だ。わざわざ映画館に足を運ぶ必要がなくなるのなら、今後は他館でも厳しい経営を余儀なくされよう。
 名古屋市のミニシアター「シネマスコーレ」の木全純治支配人は「コロナも三年目ともなると公的補助がなくなり、踏ん張りが利かなくなるところも出てくる」などと訴える。決して杞憂(きゆう)ではない。
 映画をはじめ芸術文化は私たちの人生に不可欠だが、国の予算に占める文化予算の割合は、韓国の十分の一程度という。「文化事業への公的な支援が乏しすぎる」と訴える文化人は、映画界だけにはとどまらない。そんな切実な声に政府も地方自治体も耳を傾けて、積極的な支援策を講じてほしい。
 一時代を築いた映画館の幕切れを「閉館の連鎖」の端緒にしてしまうのではなく、より手厚い文化政策の契機にしたい。

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