食品サンプル道 究め続け70年 豊島の製作所 技術力磨き発展、体験会も好評

2022年1月15日 07時00分

ミニパフェの食品サンプル作り体験でデコレーションパーツを盛り付ける参加者=いずれも豊島区で

 本物そっくりのカレーライスや天ぷら、チャーハン…。精巧に作られた「食品サンプル」に、思わずよだれが出そう。サンプルの製造販売などを手掛ける「大和サンプル製作所」(豊島区)が、今年で創業70年となる。今年はサンプル製造が事業化されて90年の節目でもある。都内でも特に歴史が古いという同製作所の歩みをひもとき、日本独自の発展を遂げたサンプルの魅力を味わおう。
 「面白いね」。先月中旬、同製作所のサンプル作りを体験した女性客二人が笑顔で顔を見合わせた。

作り始めてから約40分。完成したミニパフェの食品サンプル

ミニパフェのデコレーションパーツ

 シリコンで作ったホイップクリームに、アイスやウエハースを載せていく。スタッフは「サンプルは店頭に並べるため、正面から全てのパーツが見えるように置きましょう」などとアドバイス。四十分ほどでかわいらしいミニパフェが完成した。傍らで見ていた代表の伊藤裕一さん(68)は「子どもからお年寄りまで誰でもできる。楽しかった、と言ってもらえるのが目標」とほほ笑んだ。

工房でホットケーキの食品サンプルを手に持つ伊藤裕一代表

 工房にはほかにも、焼き魚やホットケーキといったサンプルがずらり。料理の実物から具材一つ一つをかたどって作るため、一点物ばかりだ。業界には「色出し七年」という言葉があるそうだ。思うように色を出すには七年かかるという意味で、職人には高い技術力が求められる。
 実はサンプル職人は岐阜県の郡上八幡ゆかりの人が多い。サンプルは大正末期から昭和初期に誕生したといわれているが、一九三二(昭和七)年、大阪で岩崎瀧三(たきぞう)(一八九五〜一九六五年)が初めて事業化に成功。岩崎は同県郡上郡八幡町(現・郡上市)出身。地縁、血縁のつながりで職人が増え、各地に広がっていったという。

大和サンプル製作所

 裕一さんの父菊雄さん(90)も郡上八幡出身。名古屋市で修業した後に上京し、一九五二年に荒川区で創業した。独自に技術を磨き、サンプルの製造販売やリース事業を展開した。
 現在のサンプルは合成樹脂製が主だが、当時はろう製で、溶けやすく、壊れやすかった。それでもサンプル自体が珍しく、飛ぶように売れたという。豊島区には約六十年前に移転した。
 七八年ごろに後を継いだ裕一さん。九〇年代後半から二〇〇〇年代前半には個人経営の飲食店が減少、サンプル業界も不況になったが、サンプルのストラップなどを販売すると、「自分でも作ってみたい」と声が上がるように。一〇年ごろから体験会を始めると評判を呼び、修学旅行や観光ツアーにも組み込まれた。
 日本固有のサンプルは、訪日客の増加とともに人気を集め、裕一さんも外国での催しに呼ばれたほど。しかし、コロナ禍で状況は一変。飲食業界の打撃が波及、体験会の参加者も減り、今は以前の二、三割までしか回復していない。
 それでも、「初心が大切」と裕一さん。地域の人に喜んでもらおうと、昨年の春やゴールデンウイークには地元の信用金庫と協力し、マスクに着けるサンプルのアクセサリーを毎日子ども二十人に配布した。「地元でも何の工房か知らない人がいる中で、知ってもらう機会になった。サンプルの魅力をアピールしていきたい」。そう、前を見据えている。
 サンプル作りの体験予約(有料)は、大和サンプル製作所のホームページから。ラーメンやカレーライスなど十三種から好きなサンプルを作れる。
 文・中村真暁/写真・松崎浩一、中村真暁
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