安岡章太郎さんのエッセーに飼い犬が夜中にほえだし、難儀をす…

2022年1月16日 06時30分
 安岡章太郎さんのエッセーに飼い犬が夜中にほえだし、難儀をするという話があった。寒い時期の午前一時半。パジャマの上に外套(がいとう)をはおり、しぶしぶ散歩に出る。大変だが、「(近所の)なかには受験生で、明日は入学試験という人もいるかもしれない」▼受験では苦労した安岡さんだからの未明の散歩か。「大学予科へ入るまで浪人三年、予科でまた落第一年」。途中、戦争もあって大学を出たのは二十九歳の年。受験生の気持ちがよく分かったのだろう▼安岡さんほどではないにせよ、たいていの大人が何らかの形で受験という壁の前でもがき、苦しんだ経験がある。<人生でいちばん応援してもらえるのは、受験の時かもしれない>。そんな広告があったが、なるほど己のつらい経験を思い出し、受験生を見れば応援したくもなる▼応援されるべき受験生へ振るわれた刃物がくやしい。大学入学共通テストがあった東京大学で男女二人の受験生と男性が刃物で切り付けられた事件である▼容疑者は高校二年生と知って脈が速まる。「勉強がうまくいかず、事件を起こして死のうと思った」。勉強に苦労しているのなら、受験生の苦労も分かろうものなのに▼被害者の回復とあらためて試験が受けられることを願う一方、同じ会場にいた受験生の動揺も心配になる。隣の席の貧乏ゆすりにさえ、集中力を乱される試験会場である。

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