新しい「場」~大森静佳の短歌連絡船

2022年1月16日 18時00分
 詩歌の一箱書店&ウェブ連動企画「うたとポルスカ」が2周年を迎えた。運営は第63回角川短歌賞受賞者でもある睦月都むつきみやこと、第一歌集に『光と私語』(いぬのせなか座)がある吉田恭大やすひろ。東京・下北沢の「BOOKSHOP TRAVELLER」の本棚を間借りして、書店に流通しづらい歌集歌書や同人誌を販売している。それと並行してウェブ版「うたとポルスカ」では、運営の2人が依頼したゲストによる多彩な作品が定期的に公開されている。
・コンビニの駐車場にはそれぞれの月が出ている見ながら食べた
・虹色の字幕は読みにくいけれど、じぶんでつくる両腕まくら
 たとえば最近だと、谷川由里子「月とコロッケ」は愛すべき50首。コンビニの駐車場でその日偶然居合わせた人々にそれぞれの月の見え方と感慨がある。ゆるく他人とつながる気分がやさしい。次の歌は、目がちかちかして読みにくいレインボーテロップを憎みきれないまま下の句では夢うつつへと飛躍する。「腕まくら」から連想された言葉「両腕まくら」がチャーミング。肩の力の抜けた風通しのいい文体が印象に残る。
・空はいま無言を搾っているところ あとにしよう音楽の話は
・そして詩の中には光る犬がいてその前と後ろの二千年
 笹川りょうの20首「素描」も話題になった。「無言」の雫を搾りだす青空を前にしばし沈黙していたいという1首目。詩に登場する「犬」を過去と未来の途方もなく長い時間が取り囲む2首目。詩的で澄みきった感覚によって、世界の見え方が更新される清々しさがある。

うたとポルスカ

 谷川は『サワーマッシュ』(左右社)、笹川は『水の聖歌隊』(書肆しょし侃侃房)とそれぞれが昨年第一歌集を刊行している。長い連作だからこそ味わえる作者独自の充溢じゅういつした世界というのが確かに存在するが、純文学などの文芸誌に比べると短歌や俳句の雑誌では若い作者に多くのページ数が割かれる機会は残念ながらまだ少ない。
 「うたとポルスカ」には、自分たちの読みたいものを自分たちで作ってしまおうという静かな情熱を感じる。肩肘を張らず、しかし新しい「場」が生まれている。作品のほかには、歌集についてのコラム、旅に関するエッセイ、さらに歌会録や吟行録など魅力的なコンテンツが並ぶ。ぜひ、多くの人にアクセスしてみてほしい。
 皆さんと一緒に短歌を味わい、陸と陸を明るく結ぶ「連絡船」のようなコーナーにしたいです。2年間、よろしくお願いします。

おおもり・しずか 歌人。1989年、岡山県生まれ。2010年に角川短歌賞受賞。第1歌集『てのひらを燃やす』(13年)で現代歌人協会賞など受賞。第2歌集『カミーユ』(18年)

  ◇
 東京新聞文化面で、歌人大森静佳さんによる短歌の月評「大森静佳の短歌連絡船」が始まりました。初回をTOKYO Webで公開します。大森さんと一緒に短歌のいまを味わってみませんか。次回2月12日(一部地域は同13日)以降は紙面でお楽しみください。
*原則毎月第2土曜の夕刊文化面(一部地域は翌日曜の朝刊文化面)で掲載

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