<全文>岸田文雄首相、初の施政方針演説 「新型コロナに打ち克つことに全身全霊で取り組む」

2022年1月17日 15時54分

◆新しい資本主義の実現

岸田文雄首相

 新型コロナとの闘いに打ち克ち、経済を再生させるため、令和3年度補正予算の早期執行など、危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期します。
 経済あっての財政です。経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組みます。
 経済再生の要は、「新しい資本主義」の実現です。
 市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。
 世界でこうした問題への危機感が高まっていることを背景に、市場に任せれば全てが上手くいくという、 新自由主義的な考え方が生んだ、様々な弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの「経済社会変革」の動きが始まっています。
 私は、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」によって、この世界の動きを主導していきます。官と民が全体像を共有し、協働することで、国民一人ひとりが豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていきます。
 日本ならばできる、日本だからできる。共に、この「経済社会変革」に挑戦していこうではありませんか。
 様々な弊害を是正する仕組みを、「成長戦略」と「分配戦略」の両面から、資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化していきます。
 成長戦略では、「デジタル」、「気候変動」、「経済安全保障」、「科学技術・イノベーション」などの社会課題の解決を図るとともに、これまで、日本の弱みとされてきた分野に、官民の投資を集め、成長のエンジンへと転換していきます。
 分配や格差の問題にも正面から向き合い、次の成長につなげます。こうして、成長と分配の両面から経済を動かし、好循環を生み出すことで、持続可能な経済を作り上げます。



岸田文雄首相

 まずは成長戦略。第一の柱はデジタルを活用した地方の活性化です。
 新しい資本主義の主役は地方です。デジタル田園都市国家構想を強力に推進し、地域の課題解決とともに、地方から全国へと、ボトムアップでの成長を実現していきます。
 そのために、インフラ整備、規制・制度見直し、デジタルサービスの実装を、一体的に動かしていきます。
 高齢化や過疎化などに直面する地方においてこそ、オンライン診療、GIGAスクール、スマート農林水産業などのデジタルサービスを活用できるよう、5G、データセンター、光ファイバーなどのインフラの整備計画を取りまとめます。
 5G基地局を信号機に併設するなど多様な手法で民間投資を促し、自動運転や、ダイナミックな交通管制、ドローンなど、未来のサービスを支えるインフラを整備します。
 デジタルサービスの実装に向けて、規制・制度の見直しを進めます。
 単なる規制緩和ではなく、新しいルールを作ることで、地域社会に新たなサービスを生み出し、日々の暮らしを豊かにすることを目指します。
 例えば、「運転者なし」の自動運転車、低速・小型の自動配送ロボットが公道を走る場合のルールや、ドローン、AIなどの活用を前提とした産業保安のルールを、新たに定めることで、安全を確保しながら、新サービス展開の道を拓きます。
 例えば、企業版ふるさと納税のルールを明確化することで、企業の支援による、地方のサテライトオフィス整備の取組を後押しし、企業や個人の都市から地方への流れを加速させます。
 マイナンバーカードは、デジタル社会の安全安心のための「パスポート」であり、その利便性を改善させます。
 例えば、2024年度までに、運転免許証とマイナンバーカードの一体化を進めます。転居時、住所変更手続を市役所で行えば、警察署での手続を不要とします。
 リアルとネットが密接不可分となる中、サイバー攻撃等への対処体制を整備するとともに、企業のセキュリティ強化に取り組み、デジタル社会のリスクに対し、正面から向き合います。
 経済安全保障も、待ったなしの課題であり、新しい資本主義の重要な柱です。
 新たな法律により、サプライチェーン強靱化への支援、電力、通信、金融などの基幹インフラにおける重要機器・システムの事前安全性審査制度、安全保障上機微な発明の特許非公開制度等を整備します。
 あわせて、半導体製造工場の設備投資や、AI、量子、バイオ、ライフサイエンス、光通信、宇宙、海洋といった分野に対する官民の研究開発投資を後押ししていきます。

岸田文雄首相

 社会課題を成長のエンジンへと押し上げていくためには、科学技術・イノベーションの力が不可欠です。
 世界と伍する研究大学を作るため、研究力に加え、研究と経営の分離、若手研究者の登用など、先端的なガバナンスを導入する大学に対し、10兆円の大学ファンドで支援します。
 官民のイノベーション人材育成を強化するため、大学の学部再編や文系理系の枠を超えた人材育成の取組を加速します。
 本年をスタートアップ創出元年とし、5か年計画を設定して、大規模なスタートアップの創出に取り組み、戦後の創業期に次ぐ、日本の「第2創業期」を実現します。
 2025年には、大阪・関西万博が開催されます。科学技術や、イノベーションの力で、未来を切り拓い ていく日本の姿を世界に発信していきます。

岸田文雄首相

 成長と分配の好循環による持続可能な経済を実現する要となるのが、分配戦略です。
 その第一は、所得の向上につながる「賃上げ」です。
 先日、車座でお話を伺った中小製造事業の社長さんは、生産性向上を図り、従業員の可処分所得を3%引き上げたい、それが経営者としての信念だ、と力強く語ってくれました。
 成長の果実を、従業員に分配する。そして、未来への投資である賃上げが原動力となって、更なる成長につながる。こうした好循環を作ります。
 賃上げ税制の拡充、公的価格の引き上げに加え、中小企業が原材料費の高騰で苦しむ中、適正な価格転嫁を行えるよう、環境整備を進めます。
 春には、春闘があります。近年、賃上げ率の低下傾向が続いていますが、このトレンドを一気に反転させ、新しい資本主義の時代にふさわしい賃上げが実現することを期待します。
 できる限り早期に、全国加重平均1000円以上となるよう、最低賃金の見直しにも取り組んでいきます。

岸田文雄首相

 第二に、「人への投資」の抜本強化です。
 資本主義は多くの資本で成り立っていますが、モノからコトへと進む時代、付加価値の源泉は、創意工夫や、新しいアイデアを生み出す「人的資本」、「人」です。
 しかし、我が国の人への投資は、他国に比して大きく後塵を拝しています。
 今後、官民の人への投資を、早期に、少なくとも倍増し、さらにその上を目指していくことで、企業の持続的価値創造と、賃上げを両立させていきます。
 スキル向上、再教育の充実、副業の活用といった人的投資の充実が、デジタル社会、炭素中立社会への変革を円滑に進めるための鍵です。
 世界が、産業界が、地域が必要とする、人材像やスキルについて、現場の声を丁寧に聞き、明確化した上で、海外の先進事例からも学び、公的職業訓練の在り方をゼロベースで見直します。
 人的投資が、企業の持続的な価値創造の基盤であるという点について、株主と共通の理解を作っていくため、今年中に非財務情報の開示ルールを策定します。
 あわせて、四半期開示の見直しを行います。

岸田文雄首相

  第三に、未来を担う次世代の「中間層の維持」です。
 子育て・若者世代に焦点を当て、世帯所得の引き上げに向けて、取り組みます。
 全世代型社会保障構築会議において、男女が希望通り働ける社会づくりや、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など、社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支え合う、持続的な社会保障制度の構築に向け、議論を進めます。
 世帯所得の向上を考えるとき、男女の賃金格差も大きなテーマです。
 この問題の是正に向け、企業の開示ルールを見直します。
 新たな官民連携を進めるにあたっては、公共施設の運営を民間に任せるコンセッションの一層の活用、ベンチャー・フィランソロフィーによるNPOや社会的企業への支援、社会的インパクト投資など、民による公的機能の補完も重要な論点です。
 今春、新しい資本主義のグランドデザインと、実行計画を取りまとめます。
 来年、日本がG7議長国を務めることを見据え、ダボス会議や、G7の場を活用し、世界の首脳や、経済界のリーダーと問題意識を共有しながら、世界の議論を牽引し、資本主義の変革に向けた大きな流れを作っていきます。

記者のワンポイント解説 岸田首相は、肝いりの「新しい資本主義」について多くの時間を割きました。
 首相は昨秋の自民党総裁選では新自由主義からの脱却を打ち出し、アベノミクスを修正して「分配」重視の姿勢を示していましたが、首相就任後は「成長と分配の好循環」に回帰した経緯があります。株式譲渡益や配当金などに課される金融所得課税についても当初は強化する姿勢を打ち出しましたが、直後に株価が下がると先送りを表明。新しい資本主義の理念や立ち位置があいまいだと指摘され続けています。
 今回の演説でも「成長と分配の両面から経済を動かす」と強調。今春、新しい資本主義のグランドデザインと実行計画を取りまとめる考えをあらためて表明しましたが、その具体像が問われます。

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