「とにかく急げ」駆け足の果て、マイナンバー事業費膨張 国民の目が届かない契約変更多発

2022年1月17日 06時00分
 マイナンバー関連事業では契約変更が相次ぎ、事業費が膨張していた。制度設計に関わった当事者らからは、国が駆け足で事業を進めたことで、しわ寄せを招いたと指摘する声が出ている。(デジタル政策取材班)

◆開始時期ありきでスケジュール厳しく

 「マイナンバーはリリース(開始)の時期が先に決まり、それに合わせるために非常にタイトなスケジュールになった」。内閣官房で関連システムの整備に関わった金崎健太郎・武庫川女子大教授は打ち明ける。
 マイナンバー関連法が成立したのが2013年5月。運用開始まで3年、マイナンバーのネットワークを使って役所間で情報をやりとりする「情報連携」開始まで4年という準備期間は、前例のない巨大プロジェクトにおいて「ギリギリ」(金崎氏)だった。
 14~16年度に地方公共団体情報システム機構が発注した関連事業では契約変更が相次ぎ、事業費が当初契約の2.6倍にまで膨らんでいたことが本紙の調べで判明している。
 契約変更ではなく、一から事業を発注し直す方法もあるが手続きなど時間を要する。発注側にとって、契約変更なら同じ業者と確実に継続して契約でき、迅速に事業を進められる利点もある。金崎氏は「新たに調達していればこのスケジュールはアウトだったろう」と述べる。

◆官民密接「なあなあ」負の遺産

 省庁発注のマイナンバー事業でも契約変更は生じている。17年の会計検査院の調査によると、厚生労働省のシステムでは要件定義の不備が発注後に判明し、34億円の追加支出が必要となり、開発が遅れた。
 都内自治体の情報システム部門の元幹部は「これまで役所の契約は仕様なんてほとんどあいまい。1社しか参入できない仕組みを作って、その会社となあなあでやってきた」と、官民の密接ぶりを告白する。
 役所の発注能力が問われる中、最初に発注者が完全な仕様を作り、それにそって完成品の納入を求める今の公共調達の方法に限界を訴える声は官公庁のシステム担当者の間で多く聞かれる。機構も「後発的に生じる事象を全て見込んで当初契約に反映させることは困難」と主張。短期間で検証しながら改修を繰り返す「アジャイル型」という手法への期待が高まっている。

◆「最初の入札は何だったのか…」

 機構の発注事業のほとんどは税金で賄われる。契約変更に法令などの縛りはなく、何度でも繰り返し、最初の入札だけで何年も契約を引っ張ることもできる。「何度も契約変更してしまうと、最初の入札は何だったのかとなる。透明性や競争性と裏腹の関係にある」と会計検査院元局長の有川博・日大客員教授は警鐘を鳴らす。
 機構が発注したカード交付システムの設計開発では改修を経て、契約額が当初の80倍超に跳ね上がった。だが、機構がホームページで公表しているのは当初契約の情報のみで、事業の真の姿は国民に見えない。
 有川氏は「変更が必要になった理由や変更内容を公表しないと契約が不透明になる」として、機構に説明責任を求める。

◆政策日程は「理屈で決まっていない」

「準備のスケジュールはタイトだった」という声は、国や自治体の複数の担当者らから漏れる。だが、マイナンバーに長く関わってきた政府幹部は、政策日程について「理屈で決まったものではない」と明かす。
 マイナンバーは格差是正を大きな目的に、民主党政権が実現の道筋を付けた。所得を効果的に再配分するために、一人一人の所得を正確に把握する必要があり、マイナンバー活用を目指した。
 消費税増税対策として、低所得者への現金給付が検討されたこともあり、増税とマイナンバーはセットで議論された。「増税の不公平感を払拭するためにも必要だった」と当時関わった官僚は言う。
 先の政府幹部は「政権幹部から『とにかく急げ』という要請があった」と回想。全国の行政機関をつなげる膨大なシステム開発の難しさは考慮されず、政権復帰後の自民公明両党でもスケジュールは踏襲された。
 国の有識者会議の委員なども歴任した自治体のシステム担当者は「コロナ対策もそうだが、日本では政策をつくる時にシステム化を考慮しないから、後でトラブルを招きやすい」と課題を指摘する。

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