世界のアゲハ 全603種集めた 横浜の研究家・中江さん図鑑出版 珍種求め西へ東へ 専門家も太鼓判

2022年1月18日 07時03分
世界各地のアゲハチョウなどの標本を手にする中江信さん=横浜市青葉区で

世界各地のアゲハチョウなどの標本を手にする中江信さん=横浜市青葉区で

  • 世界各地のアゲハチョウなどの標本を手にする中江信さん=横浜市青葉区で
  • 世界のアゲハチョウ図説
  • フトオアゲハ
  • オウトクラトールウスバ
  • ヴィクトリアトリバネアゲハ
  • アオスジアゲハ
  • ギフチョウ
 世界各地を舞うアゲハチョウ全603種の写真を集め、解説を添えた図鑑「世界のアゲハチョウ図説」が出版された。著者は、国内はもとよりメキシコ奥地やアマゾン川流域でも採集を重ねてきたアゲハチョウ研究家の中江信(まこと)さん(66)=横浜市青葉区。国内外の愛好家仲間らの協力も得て、20年がかりで完成させた労作だ。
 中江さんの昆虫採集好きは小学生の頃から。中でも「飛んでいるチョウを捕るのが面白かった」。大学時代、昆虫ファンで知られる北杜夫の小説「谿間(たにま)にて」を読み、登場する珍種フトオアゲハを捕まえたいという思いが募り、眠れなくなった。就職後に台湾の奥地まで出かけ、一週間近く粘った末に採集に成功。以後、アゲハにのめり込んだ。
 勤め先は外資系の石油会社。海外出張があると、仕事後に休みを組み込んでちょいと足を延ばし、アゲハの生息地を巡った。訪問先は東南アジア各国、メキシコ奥地やカリブ海の島々、南米アマゾン川流域、インドやパキスタンなど三十カ国以上。自らの手で約二百種のアゲハを採集した。
 図鑑製作に着手したのは二〇〇一年。東南アジア各国のチョウ類図鑑を出版した西山保典(やすすけ)さんから、「世界のアゲハチョウを全種掲載した図鑑を作らないか」と声をかけられた。国や地域別、あるいは世界の代表的な種を載せた図鑑はあったが、全種を網羅したものはなかった。「写真さえ手に入ればいいものができるはずだ。やってみよう」
 自ら採集した分以外は海外を含む友人やそのまた友人らの縁をたどり、標本や写真を集めた。努力は実り、自身が文献や資料にあたって確認し、分類した全種の掲載を実現。希少度、生息する環境や標高、分布などを解説した。分類にあたっては、分類学の父と呼ばれるスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネらの文献も勉強したという。
 ページをめくってみる。蛍光イエローが目を引く「ヴィクトリアトリバネアゲハ」は南太平洋のソロモン諸島に生息し、一八五四年ごろに英国の自然科学者に銃で撃ち落とされ、標本が世界に紹介された。アフガニスタンに生息する「オウトクラトールウスバ」は同国で人道支援を続けた故・中村哲医師とゆかりが深い。チョウが好きで、この種への興味が同国を選んだ動機の一つだったというエピソードを解説に盛り込んだ。
 街路樹のクスノキを食べて成長する「アオスジアゲハ」は、東京都内や関東地方の市街地で身近に見られる。ただ、「市街地では最近二十〜三十年で数が減ってきた」と中江さん。春の女神と呼ばれる日本固有種の「ギフチョウ」は、一九七〇年代まで高尾山周辺でも見られたが現在都内では絶滅したとされる。
 印刷製本は、昆虫写真の色校正技術などで世界的に定評があるチェコの専門業者に発注した。チョウを専門に研究している東京大学総合研究博物館の矢後勝也(まさや)博士(50)は「全種を一冊にまとめた図説は初めて。情報が多いのに見やすくて扱いやすい」と評価。チョウを代表的なモチーフにする世界的ファッションデザイナーの森英恵さんも「日本人の永年の研究がステキな本になってうれしく思う」と一文を寄せた。
 「ずっと夏休みの宿題を続けている感じ」と語る中江さん。「一人でも多くの人に喜んでもらえれば、苦労したかいがある」と達成感をにじませる。
 フルカラーで二万七千五百円。出版元「昆虫文献 六本脚」のホームページから購入可。問い合わせは、同社=電03(6825)1164=へ。
 文・吉岡潤/写真・内山田正夫
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