<社説>受験生ら刺傷 コロナ禍 孤独の危うさ

2022年1月18日 07時49分
 理解に苦しむ事件がまた起きた。大学入学共通テスト初日の十五日朝、東京都文京区の東京大前の歩道で、受験生ら三人が刃物で切り付けられた=写真。うち一人は重傷を負った。
 殺人未遂の疑いで逮捕された高校二年の少年(17)は前夜、名古屋市内の自宅から夜行バスに乗り、上京した。包丁やナイフ、可燃性の液体を所持し、事件の直前、地下鉄の車内や駅構内で放火を試みた形跡もあった。
 少年は「医者になるため東大を目指して勉強していた。成績が振るわず、医者になれないなら事件を起こして、死のうと思った」と述べたという。不特定多数の人々に対する明確な殺意と周到な準備は、大阪・北新地のビル放火殺人事件を彷彿(ほうふつ)させる。
 少年にとって受験はまだ来年だ。成績は優秀で、学業が大きく遅れていたわけではないと級友らは話している。なのに、なぜ、そこまで思い詰めたのか。まだまだ未解明な点が多い事件だが、コロナ禍の影響も考えざるを得ない。
 実際、少年が在籍する私立高校は「昨今のコロナ禍の中で学校行事の大部分が中止となり、勉学だけが高校生活のすべてではないというメッセージが届かなかった」とするコメントを出した。
 この学校は自主性を重んじ、生徒主導の文化祭や遠足など学校行事の充実ぶりでも知られるが、少年はコロナ禍の高校生活しか送っていない。級友や教師らとリアルにやりとりし、コミュニケーションを深める機会が少なかったことが、学校側も言及した「少年の孤独感」につながったのか。
 コロナ禍も三年目。人と人が触れ合う機会が減り、大人でも時に「孤独」にさいなまれる。多感な時期の子どもには想像以上の影響が出始めた可能性がある。小さな芽に気付く想像力を高め、社会全体の知恵や工夫も発揮したい。
 受験シーズンはこれからが本番だ。受験生が襲われるという異例の事態に、各会場では警備体制の強化が避けられない。安全、安心な環境下で、かつ、受験生が落ち着いて試験に臨めるよう、関係者には最大限の配慮を求めたい。

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