過労死の「見かけ上の減少を優先」労働時間の過小認定が続出 厚労省の基準厳格化で弁護団が指摘

2022年1月19日 06時00分
 労災の申請件数が過去最多を更新するなど過労死問題への関心が高まる中、厚生労働省が労災認定のハードルを上げる通達を出していた。世論や働き方改革の流れに逆行するとみられても仕方ない。(久原穏)
 厚労省は昨年9月、専門家の提言を受け過労死・過労自死に関係する認定基準を緩和。労働時間以外の要因と合わせ総合的に評価するようにした。この緩和で、下がり続けてきた過労死の認定率に歯止めがかかる期待も出ていた。ところがその半年前の昨年3月に、労災認定で最も重要視される労働時間について従来より厳しい算定基準を内々で決め、通達していた。
 過労死弁護団によれば昨年来、労働時間の過小認定が続出しているという。
 例えば、製造業の社長補佐の60代男性が過労で倒れ、脳梗塞の後遺症が出て2020年に東京都内の労基署に労災申請したケース。パソコンのログイン時間やメールの詳細な記録を提出したが、3月の通達に沿う形で「持ち帰り残業は例外を除いて労働時間に算入しない」とされ、労災保険の不支給が出た。
 「客観的な資料がそろい、以前なら問題なく認定されたはず」と弁護団は驚き、東京都労働局に不服審査を申し立てた。
 労働時間の算定基準を厳しくした背景には19年4月の「時間外労働への罰則付き上限規制」導入の影響もあると弁護団はみる。
 労基署には、労災の補償に当たる労災部署と企業の法令違反に目を光らせる監督・安全衛生部署がある。時間外労働の上限規制導入以降、過労死事案の労働時間の調査に監督部署の関与が顕著になったことが、弁護団の主張の根拠だ。弁護団は「被災者の救済より、過労死案件の見かけ上の減少を優先させている」と指弾する。
 労基署監督官出身の社会保険労務士も「監督部署は労基法の違反を特定する観点で調査し、労災担当は対象者に漏れなく補償できているかを重視する」と本来の両者の立場の違いを説明。「労災の認定で監督部署が前面に出ることに違和感」があると言う。
 労災保険は労基法と一線を画し、度重なる改正を通じて労働災害の被災労働者や遺族の早期救済に欠かせない制度に発展した。ここ数年の労災認定率の凋落は、労災保険の理念や労災に苦しむ人の救済の歴史を軽んじているような気がしてならない。

 労災保険 労災保険法は、労働基準法の災害補償制度と同じ1947年に制定。両者の大きな違いは、労基法が使用者の費用負担で被災労働者の療養費などを補償するのに対し、労災保険は全額事業主が負担する保険料を財源に保険給付。使用者の負担能力次第で補償されない場合がある労基法に対し、労災保険は迅速に救済できる。
 また業務中に加え、通勤中の災害もカバーするなど内容に勝る労災保険が災害補償の中心を担っている。

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