繊細な音色に魂込め 三味線・鶴澤清介が「平家女護島」 国立劇場2月文楽

2022年1月21日 07時26分

文楽への思いを話す三味線の鶴澤清介=大阪市の国立文楽劇場で

 東京・国立小劇場の二月文楽公演で、近松門左衛門作の名作「平家女護島(にょうごのしま) 鬼界が島の段」が上演される。絶海の孤島で繰り広げられる流人たちの物語。出演する三味線の鶴澤清介(69)は「音楽的に盛り上がるところが少ない作品。だからこそ弾くのが難しくて、面白い」と語る。 (堀井聡子)
 平家打倒を企てた罪で島流しにされた俊寛僧都(しゅんかんそうず)ら三人がほそぼそと生きている。そこへある日、都から赦免船が到着する。島を出られることになった三人は喜ぶが、流人の一人と恋仲になった海女の千鳥は乗船を許されず、嘆き悲しむ。そのとき、俊寛は思いがけない行動に出て−。
 岩肌に波が打ち付け、海風が吹きすさぶ。その世界観を少ない音で細やかに表現するのが三味線。力強いバチさばきに定評がある清介が、今回は繊細な音色に熱い思いを込める。
 三十代前半で初めてこの作品の舞台を踏んだとき、「手も足も出ないと思った」と明かすのは、千鳥が情を表現するクドキの場面。静けさの中、絶妙な間を空けてチーンと三回同じ高い音を鳴らし、語りが始まる。「ものすごくいい音でチーンと弾かないかん。間をどう処理するか、そういうのを分かっていないと、平家女護島はできない」。一音に、無音に、自身が描く世界と登場人物の思いを乗せる。
 中学時代、ラジオ放送で流れてきた八代竹本綱太夫(語り)と十代竹澤弥七(三味線)の浄瑠璃に心奪われたのが、この世界に足を踏み入れたきっかけだ。文楽の魅力を「感情が高じてきたら歌い出すねん。宝塚と一緒」とちゃめっ気たっぷりに語った後、「文楽では人間の本音を言うねん。必ず泣いて、わめいて、叫ぶ。人間の本音やから面白い」と熱く説いた。
 二十歳で初舞台を踏んでから五十年近く。「文楽はまだまだやれることがある」と、古典の継承だけでなく新作の作曲など、新しい試みにも挑戦してきた。昨年は自身のユーチューブチャンネルを開設。三味線の仕組みを説明したり、弦の製造現場を訪ねたりして、初心者にも興味を持ってもらえるような動画を配信している。
 かつて自身がラジオの義太夫節に聴き入って感じたように、「お客さんをふぁーっと包み込んで別世界に行くような」、そんな演奏を目指す。二月の「平家女護島」では、どんな世界に連れて行ってくれるだろうか。
<つるざわ・せいすけ> 1952年9月22日生まれ。大阪府出身。73年、二代鶴澤道八に入門。74年に鶴澤清介を名乗り、初舞台を踏む。82年、鶴澤清治門下となる。三谷幸喜による三谷文楽「其礼成(それなり)心中」など新作文楽の作曲も手掛ける。恩賜賞・日本芸術院賞(2018年)、紫綬褒章(20年)など。

国立劇場2019年12月文楽鑑賞教室「平家女護島 鬼界が島の段」より(国立劇場提供)

◆国立劇場2月文楽公演(2月5〜22日)

 ▽第1部(午前10時45分開演)=「二人禿(ににんかむろ)」「御所桜堀川夜討(ようち)」「艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)」
 ▽第2部(午後2時40分開演)=「加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)」
 ▽第3部(同6時開演)=「平家女護島」「釣女(つりおんな)」
 国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。

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