<中村雅之 和菓子の芸心>「粟ぜんざい」(東京都新宿区・紀の善) 人気を呼んだ曲搗き

2022年1月21日 07時26分

イラスト・中村鎭

 「粟(あわ)」といっても、最近ではどんなものか解(わか)らない人が多いことだろう。「古事記」や「日本書紀」には、米や麦などと並んで「五穀」に数えられている。米が貴重だった時代、稗(ひえ)と並び、庶民の間で、よく食べられた。
 江戸の町では、寺社の境内に出る「粟餅売り」が、人気を呼んだ。
 人気の秘密は、味もさることながら、「曲搗(づ)き」の妙技にあった。江戸時代後期の江戸、京都、大坂の風俗を記した「守貞漫稿(もりさだまんこう)」にも出てくる。男が2人1組になって、威勢良く搗く。搗き上げると、餅をむんずと掴(つか)み、指の間から出した小さな餅を、2メートルほども離れた所に置いた盤の上のきな粉の中へ、見事に投げ込んでみせたのだという。
 こういった「粟餅売り」の様子を常磐津の地で、踊りに仕立てたのが「粟餅」だ。
 残念ながら、「粟餅」は、すっかり東京では、見ることができなくなってしまったが、「粟ぜんざい」は健在だ。
 山の手を代表する甘味処(どころ)・神楽坂の「紀の善」の「粟ぜんざい」は、もっちり感がある粟に、コクのある黍(きび)を交ぜて蒸す。
 蒸し上がると、薄い黄色。その上に、この店自慢の色も味も、この上ない上品な紫色の漉(こ)し餡(あん)が、たっぷりと掛かる。選(よ)りすぐった小豆を漉し、丁寧にアクを取りながら練り上げる。
 口当たりは滑らかだが、僅(わず)かに粒を残した餅の間に、漉し餡が絡み合うのが絶妙。これが、普通の「ぜんざい」とは違う「粟ぜんざい」ならではの味だ。
 冬だけの限定。厳しい寒さの中、身も心も温まる。(横浜能楽堂芸術監督)
<紀の善> 東京都新宿区神楽坂1の12。(電)03・3269・2920。店内1016円、持ち帰り691円。

第60回記念日本舞踊協会公演常磐津「粟餅」(藤間仁章、花柳翫一)=協会提供


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