箱根の「湯立獅子舞」を重要無形民俗文化財に 国文化審が答申 悪疫退散を願った伝統神楽

2022年1月22日 07時33分

仙石原の湯立獅子舞=いずれも箱根町で(いずれも町教委提供)

 国の文化審議会は21日、箱根町に伝わる神楽「箱根の湯立獅子舞(ゆたてししまい)」を、国の重要無形民俗文化財に指定するよう文部科学相に答申した。町内の国指定文化財は、重要文化財や史跡など22件あるが、重要無形民俗文化財は初めて。厳しい環境を生きた地元民が悪疫退散を願った伝統芸能という。(西岡聖雄)
 湯立獅子舞は、湯を人に振り掛けて清める伊勢神宮系の湯立神楽と、悪疫をはらう獅子舞が融合した全国的に珍しい様式。湯立と獅子のダブルパワーで疫病神を払おうとした歴史がうかがえる。金太郎伝説を生んだ平安時代の武士、坂田公時(さかたのきんとき)を祭神とする公時神社を含む仙石原や宮城野地区の神社の祭礼で奉納される。

宮城野の湯立獅子舞

 獅子頭をかぶった人がササなどで釜の熱湯をかきまぜ、氏子や見物人に湯しぶきをふりかけ無病息災を願う。獅子は鈴や剣で力強く舞い、悪魔を追い払う。獅子舞を楽しむ行事というより、皆で疫病と闘う厳粛な儀式の趣という。巫女(みこ)や山伏らが伝承することの多い神楽だが、箱根では地元民が主体となって受け継ぐ。
 公時神社や町教育委員会によると、江戸時代の十八世紀後半に静岡県から箱根に伝わり、仙石原、宮城野の順に広まったとみられる。隣の南足柄市の神社にも祭礼道具は残るものの、行事は途絶え、現在は箱根町と静岡県御殿場市の一部神社にのみ伝わる。
 仙石原は太古、箱根火山の噴火で芦ノ湖から分断されるまで湖だった。湿原化して人が住み始めたが、標高六五〇メートルの厳しい気候で土壌も悪く、江戸時代はわずかな田畑を耕す苦しい生活だった。隣接する宮城野も標高五〇〇〜六〇〇メートルで、観光地化したのは温泉が湧出した高度経済成長期になってからだ。
 火山灰など大量の噴出物で復興に長期を要した富士山の宝永大噴火(一七〇七年)や地震、土砂災害などの災厄に見舞われてきた環境で、呪術的な神楽が定着したらしい。
 天然痘の流行期も行われた湯立獅子舞は明治末期に一時中断したが、世界で数千万人が死亡したスペイン風邪が大正時代に流行すると復活した。獅子は病人の枕元で舞うこともあった。
 箱根町郷土資料館の鈴木康弘館長(62)は「コロナ禍の現代同様、団結して地域を悪疫から守りたい思いから湯立獅子舞が残ったのだろう」と話す。町教委は企画展などを検討する。

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