『ローリング・ストーン』の時代 サブカルチャー帝国をつくった男 ジョー・ヘイガン著

2022年1月23日 07時00分

◆米誌創刊者の二面性描く
[評]湯浅学(音楽評論家)

 アメリカの雑誌『ローリング・ストーン』を創刊した人物、ヤン・ウェナーの評伝である。後書きによれば、著者はウェナー本人から依頼を受けて執筆したという。それが疑わしく思えるほど、本書にはウェナー本人への忖度(そんたく)が少しも感じられない。数多くの関係者への取材、段ボール五百箱を超える資料の読み込みによる赤裸々な描出だ。
 『ローリング・ストーン』は音楽ジャーナリズム、ロックやポップスの評論のあり方、論述の仕方に大きな変革をもたらした雑誌だ。創刊は一九六七年。そのときウェナーは(たったの)二十二歳だった。音楽(とドラッグ体験)に衝(つ)き動かされた結果だった。ロックは文化的主張であり、世の流れを変えうる力を持っている、という確信を伝えたい。その当初の思いは純粋なものだった、とわかる。
 しかしウェナーは、ジャーナリストというより出版業者でありロックのグルーピーだった。本書で繰り返し描き伝えられるのは、彼の強欲さ、独善性、強い承認欲求、名声への執着心、無慈悲な行動、及び、その結果生じたトラブルや不可思議な人間関係の実態である。
 『ローリング・ストーン』が、カウンター・カルチャー誌として出発し、辛辣(しんらつ)な批評やそれまでになかったルポルタージュを展開していく変遷を辿(たど)っていく。それがおのずとウェナーの野心の変容ぶり、意固地さ、特殊な感情を描き出すことに直結している。天真爛漫(てんしんらんまん)な青年かと思うと冷酷な裏切り行為に走る悪徳商人にもなるウェナーのひらめきが、そのまま『ローリング・ストーン』の魅力となり弱点にもなっていた。
 ロック側から見た、一九六〇年代以降のアメリカ・カルチャー史として、読み応えのある労作である。なぜブルース・スプリングスティーンはウェナーと仲がいいのか。政治的主張がロックと違和感なく同居していたのはなぜか。その答えが本書に記されている。ビートルズに始まり、ドナルド・トランプの大統領就任に至る物語。ちなみにウェナーとトランプは同い年だ。
(中島由華訳、河出書房新社・7260円)
ライター。米雑誌『ヴァニティ・フェア』などに政治やメディアに関する記事を寄稿。

◆もう1冊

ハンター・S・トンプソン著『ラスベガス★71』。山形浩生訳。(ロッキング・オン、品切れ)。ローリング・ストーン誌で活躍したライターの代表作。

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