続きは俺しか描けない 闘病経て2年半ぶりに連載再開 青野春秋さん(漫画家)

2022年1月22日 13時05分

 リモート取材のため、写真は青野さん提供

 中年男が漫画家を突然目指すコメディー漫画「俺はまだ本気出してないだけ」で、二〇〇五年に鮮烈なデビューを飾った青野春秋(あおの・しゅんじゅう)さん(42)。その後、さまざまな病気で中断を繰り返しながら執筆しているのが、自伝的作品「スラップスティック」だ。少年時代の貧困や暴力も描いているが「俺にとっては苦しい思い出じゃなくてコメディー」だという。多くの人が「中断」を余儀なくされている今、二年半ぶりに連載を再開した作品への思いを聞いた。
 舞台は茨城県の小都市。小学生の春人は六歳上の兄、血縁のない母との貧しい三人暮らし。地域から疎まれ、兄や母に体罰を受ける春人は、病魔に襲われ両手の後遺症で苦しむ。一方、秀才でケンカも無敗の兄は、地元最強の暴走族とたった一人で敵対して…。

(C)「スラップスティック」青野春秋/小学館

 タイトルは英語で「ドタバタ喜劇」の意味。「悲哀があり笑いがあり、人生は長尺のコントという感覚で付けました」。重たい出来事の連続だが、他者の営みを上空から眺めるような淡々とした筆致だ。「最近の言い方だと『毒親』とか、子どもの頃のトラウマ(心的外傷)で悩む人は多い。エピソード自体はつらくても、見せ方は希望があるようにしたかった」
 ただ、実際の執筆は「自分の中で咀嚼(そしゃく)できていなかった部分もあり、つらかった」。実は、うつ病を発症して十数年になる。「医者から『自分のことを漫画に描くのはやめない?』と言われたこともあります。でも、雑誌に載って読んだ時に消化できた。冗談っぽく向き合わないと自分が持たなかったのかもしれない」
 人生で初めて描いた漫画が、今作の原型となる短編だった。上京してバイト生活を送っていた〇一年、賞金目当てに講談社の公募に送り、入賞。「俺はまだ−」が実写映画化された一三年、満を持して月刊誌「IKKI」(小学館、休刊)で連載が始まった。だが先天性の腎臓病やうつ病が悪化、さらに肝臓、心臓も患った。一八年春から一年二カ月の休載。一カ月の再開を挟み、一九年六月から二度目の長期療養に入った。
 コロナ禍も重なり、基礎疾患が多くワクチンを接種できない青野さんは「外出は犬の散歩と運転免許証の更新だけ」で静養に徹した。「死ぬことは怖くないけど、この漫画の続きは俺しか描けない。未完で終われない。だから頑張れた」
 社会全体が「闘病」の様相となる中、二〇年七月に「死にたい人たちに伝えたいこと」と題した文章をインターネットで発表した。「コロナの死者が増え、有名人の自殺のニュースもあった。俺もうつで『死にたいベテラン』なのですが、悩んでいる人からSNSでメッセージがよく届いたので」。昨年一月には、出版社に依頼されても断っていた「俺はまだ−」の後日談をネットで公開。「漫画をちゃんと描く体力はまだなかったが、少しでも喜んでもらいたかった」
 昨年十一月に再開した「スラップスティック」は、将来の不安を抱えた中学生編の佳境を迎えている。作中、青野さんの原点を思わせる場面がある。
 孤立した春人が、親切な店主に漫画の立ち読みを許されて書店に通い、小銭をためて買った一冊を大切に読み込む。「『ドラえもん』の二十三巻でした。コマとコマの間に何が起きているかを勝手に考えれば、同じ話が何度でも楽しめた」。原因不明の腹痛に耐える時も、入院した時も、側には漫画があったという。
 「俺は漫画に救われたから漫画に対して真摯(しんし)なんです。この作品は、仮に連載が打ち切られても最後まで描ききる。大変だったけど人に恵まれて俺は生きている、ということを描きたい」 (谷岡聖史)
     ◇
 「スラップスティック」は小学館のスマートフォン用アプリ「マンガワン」で連載中。既刊六巻。講談社のアプリ「コミックDAYS」では新作「みんなのうた」を連載中。

関連キーワード


おすすめ情報

土曜訪問の新着

記事一覧