新釈 古典落語図鑑 三遊亭兼好

2022年1月23日 07時22分

山田雅子撮影

 「落語に興味はあるけど、言葉や生活がピンとこない」という人も少なくないのでは。江戸に寄席が誕生したのは十八世紀の終わりで、令和の今日も受け継がれる古典落語ですが、江戸庶民の暮らしが現代人に伝わりにくいのも事実。「言葉や情景が分かれば、噺(はなし)に入りやすいのでは」と、実力派の三遊亭兼好(52)が季節に合わせた「藪(やぶ)入り」と「厄払(やくはら)い」を題材に文章と得意のイラストで解説します。題して「新釈 古典落語図鑑」です!! (聞き手・ライター神野栄子)

◆【藪入り】離れて分かる親子の情

 藪入りで、あすは奉公先のお店(たな)から一日の休みをもらった亀吉が三年ぶりに里帰り。どう迎え入れようか思いを巡らせ、一睡もできなかったお父(とっ)つぁんは、帰った亀吉の立派なあいさつに涙、涙。息子を銭湯に行かせている間に、おっ母(か)さんが紙入れ(財布)をのぞくと五円札が三枚。悪いことでもしたのではと叱りつけるお父つぁんに、亀吉は…。
 ◇ 
 藪入りはお店からもらえる休暇で年二回、旧暦の正月と盆にありました。昔は十歳ぐらいで子どもを奉公に出しました。自分のところでは甘くなるから外で勉強させようと。里心がついてしまうからと最初の三年は休みがないので、帰る日は穴が開くまで玄関先を掃き清めるほどソワソワ。子の成長に驚き、涙する親の気持ちが丁寧に描かれます。
 噺の続きは、「店に出るネズミを捕まえて、交番に持っていって懸賞に当たったんだよ」との説明に、安心したお父つぁんが一言。「よかったな。これからも主人を大事にしなよ、チュー(忠)のおかげだから」
 江戸の艶笑(えんしょう)噺が元ですが、今のわれわれの「藪入り」は明治が背景と思われます。当時はペストの流行につながるネズミを捕まえて交番に持ち込むと懸賞の札が渡され、抽選で賞金がもらえたことなどを、まくらで説明してから始めます。
 オチはネズミと忠義をかけていますが、より分かりやすいようにと僕はこんなふうにしています。「ネズミとは気が付かなかった」「お父つぁんがネズミだと気が付かないのはおかしいや」「どうして?」「お父つぁん、さっきまでネコかぶっていたから」
 この噺は親子の情愛に重きが置かれています。離れてみると、子どもがよく見えるように思います。藪入り、親子で聴いてみませんか?

◆【厄払い】日本に根差した季節感

 与太郎が毎日ブラブラしているので、おじさんが大晦日(みそか)の厄払いをやらせることに。祝儀の口上を覚えられないので、おじさんは紙に書き、ふりがなを付けました。お店(たな)から声を掛けられ、厄払いを始めた与太郎ですが…。
 ◇ 
 旧暦で一年の始まりを告げる立春の前日の節分は、いわば大晦日。昔は季節の節目に邪気を払う習わしがあり、めでたい口上を言って厄払いをし、小銭と豆をもらう「軒付(のきづ)け」の商売が成り立ったそうです。
 正しい口上は「鶴は千年、亀は万年、東方朔(とうぼうさく)は八千歳、浦島太郎は三千年、三浦の大助(おおすけ)百六ツ…」。東方朔は八千歳まで生きたという中国の伝説の文人。三浦の大助は、鎌倉時代の三浦一族の当主、三浦大介(おおすけ)を指しています。
 与太郎はつかえて間違えてばかりなので、僕も「亀は“よろず”年」とか「鶴は十年」とか、あらかた間違えます。演者ごとにいろんな間違いをして、笑いをとります。一生懸命だけど失敗してしまう与太郎のかわいらしさ、放っておけないおじさんのやさしさも感じてほしいところです。
 口上が面倒になり与太郎は「とうぼう、とうぼう…」と言って逃げ出します。そこでお店の旦那が「逃げていく。それで(東方朔にかけて)『逃亡』と言ってた」がオチ。時季が限られたネタですが、「とうぼう、とうぼう」としゃべっていると、「春が来たな」と明るい気分になります。ちなみにお店は普通の店、大きな店は「大店(おおだな)」です。
 最近は豆まきをすることも少なくなりました。クリスマスやハロウィーンなどは盛んですが、日本の風土に根差した歳時を落語は教えてくれています。
<さんゆうてい・けんこう> 1970年福島県会津若松市生まれ。サラリーマンを経て98年28歳で三遊亭好楽に入門、前座名「好作」。2002年二つ目昇進、「好二郎」に。08年真打ち昇進で「兼好」。11、12年国立演芸場花形演芸会金賞。滑稽噺を得意とする。

◆出演予定 

▼独演会「兼好集」 2月7日午後6時45分、東京・日本橋公会堂。3600円。オフィスエムズ=(電)03・6277・7403
▼兼好平日昼の独演会 2月24日午後2時、東京・なかの芸能小劇場。3000円。オフィス10=(電)03・6315・0422
▼落語教育委員会 2月28日午後6時半、東京・練馬文化センター小ホール。3700円。夢空間=(電)0570・066600

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