<かながわ未来人>アートを看板に 就労支援 スタジオクーカ設立者 関根幹司(せきね・もとし)さん(66)

2022年1月24日 06時56分
 平塚市の障害者就労支援施設「スタジオクーカ」を二〇〇九年に設立した。名称は「何して食うか」から来ている。特徴はアートを看板にしていることだ。十八〜六十八歳の約百人が所属。もっぱら絵画やデザインなどの創作に取り組む。展示会やワークショップを重ね、作品の販売や商品デザインで収入を得ている。
 学生時代、障害者を対象にした料理教室を手伝ったのが福祉の世界に足を踏み入れるきっかけだった。それまで福祉に関心はなかった。その日もボランティア活動をしていた弟が行けず、代打を頼まれ、しぶしぶ引き受けただけだった。
 会場で一人ぽつんと窓の外を見ている、車いすの男性がいた。「なぜ参加しないのか」と尋ねると「こんなの、つまんねえよ」。本音をぶつけられ、「衝撃的で、頭が開いた感じだった。僕でも福祉に関われそうな気がして興味がわいた」。
 自閉症の子どもを受け入れる保育園に就職。五年ほど働き、地域作業所へ。そこで出会った若者は段ボール紙の上に、木工ボンドをチューブからありったけ絞り出し、切った段ボール紙を貼り付けることに没頭していた。「ボンドが乾くと、すごくかっこいいオブジェに見えて」。カレンダーに仕立てたら売れた。別の男性が描いた絵も「面白い」と思った。
 一九九二年、同市の湘南福祉センター内に、全国的にも珍しいアートを専門にする施設「工房絵(かい)」を開いた。「作業所のボールペンの組み立てのような作業が嫌なら、絵を描けばいい。何か好きなことが見つかればいい」。クーカの前身だ。
 当初、作品を福祉展に出品しても関心を持ってもらえなかった。「アートとして評価してくれる世界で勝負しよう」と東京・銀座などのギャラリーを借りて展示すると、買い手がついた。デザイナーの紹介で、雑貨などを扱う都内の人気店が作品を置いてくれた。
 施設利用者の親たちは驚いた。「何の価値もないと思っていた自分の子どもの作品が売れるなんて」と。「芸術はすごく広い。障害者と健常者の境目なんてない。表現の形は人それぞれでいろんな可能性がある」
 クーカを「人が立ち上がろうとするのを待つモラトリアム空間」と表現する。「何もせずに、ぷらぷらしていてもいい。アートはそういうこととも相性がいい。そして創作活動を通じて自己評価が高まり、自主性、自発性が育つ。僕は見守るだけ」(吉岡潤)
<スタジオクーカの作品展示> 平塚市美術館は昨年7〜9月、開館30周年記念としてスタジオクーカの約300点を集めた展覧会を開催。新型コロナウイルスの感染拡大期だったが、56日間で約7400人が来場。「どれもステキ」「迷いのない線、こだわりの自由さに感動」「どれも個性的で輝いていた」などの感想が寄せられた。市内の「ギャラリークーカ&カフェ」(明石町)では作品展示やグッズ販売などを行い、来場者と制作活動に取り組むメンバーとの交流の場になっている。平日午前10時半〜午後3時半。詳しくはスタジオクーカのホームページで。

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